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母初日

4月5日 La Mère 母 初日おめでとうございます🎉
観たらすぐ書けをモットーにしてたけど、あまりにハードな1週間の締めくくりがこれで、家に帰ったらヘトヘトで、玉置玲央のスペース聞きながらぼーっとしてた。

ともかく幕があがりました。
日本でショラーさんが1から作る物語。とても楽しみにしてました。
でさ、最初の感想。
これ。

これしかない

とにかくすごい。『暗い喜劇』という言葉がほんとうに良く合う。アンヌは冒頭からとっ散らかっていて、息子が連絡をくれないのは、夫が仕事ばかりしているのは、誰のせいなのか、何が原因なのか、私がしてきたことはなんだったのか、ぐるぐるぐるぐる繰り返す。事前のインタビューで『観客は混乱する』と読んだけど、一番混乱してたのはアンヌだった。
若村さんは、繊細で、図々しくて、哀しくて、愛おしいアンヌを、それはもう美しく、明瞭に演じてた。

分かりにくい構成なのに、若村アンヌがくっきりと、その存在を際立たせ、まるでひとり芝居でも観ているかのようで。

おそらくはアンヌの妄想に生きる、ニコラ、ピエール、エロディ…。彼らのくるくると変わる態度は、アンヌの不安定さを表し、それに対して一喜一憂するアンヌもまた妄想の世界で生きる。実際は、大きなお家にひとり、過去を振り返り、反芻する日々。

え、怖…もうホラーだよ、これ。

誰しも母から生まれた、母なしでは人は存在しない。の割に、わりと雑に扱われる母という存在。
「無償の愛」「母性」…なんだかふんわりした、『理想の母』のイメージが上からのしかかる。
懸命にそれに応え、やり遂げた途端、「お疲れ」って肩叩かれて、代わりにやってくる更年期という不調。残酷。だけど、それがフランスの物語で、日本でも通じることに驚く。え、世界共通なのこれ?

アンヌは、泣いて、縋って、彼女の世界を守ろうとする。それができないことはわかっていても、そうすることしかできない。子離れのタイミングを完全に逃してしまった。痛々しい。
夫との会話もまったく噛み合わない。
それでもそれが彼女の世界の全てだった。

若村さんのアンヌは、その痛々しい姿の中に、美しい心があって、本来の優しくて愛に溢れていたアンヌを残しつつ、下品なことばを繰り返し、ぐずぐずと壊れていく、実にチャーミングで、恐ろしい。

印象的なのは、健一さんのピエールで、第一声がめちゃくちゃとぼけてて、ぜんぜん力が入ってないの。なんだかふわふわしてて…途中で、あ、これ、アンヌから見たピエールなのかなって、ふと思った。アンヌはもうピエールに感心が無くて、だからピエールのキャラクターの輪郭がぼやける。
いるんだか、いないんだか。
健一さんがすごいのは、そのまったく力が入ってない感じを、いかにも当たり前のように演じるところで、これが積み上げた経験の重さかと…。

つい最近まで16歳のダヴィドだよ?
床に寝転がって、駄々こねまくってたのに…。

高級そうなスーツをサラッと着こなし、髪を後ろになでつけた、できるビジネスマンなのよ、それはもう、完璧な。
オタク的なことを申すなら、シャツのボタンを止める仕草とジャケットを羽織る姿が死ぬほど好きです。

あとさ、伊勢さんだよ。
エロディもすっとぼけてんだよな。
登場シーンはすごく繊細で、イメージ通りのエロディだったのに、途中から、なんかもうわけわかんなくなってて、アンヌが壊れていく過程で、エロディが美しく、強く、存在を増してくる。
それが嫌味がないのは、伊勢さんだからってところが大きいのかな。すばらしくキュート。

最後ね。圭人くん。
正直、ニコラがいちばん受け止め方が難しい。

あ、毎回言ってるけど、今回は少しだけ床に這いつくばったけど、逆に、おりゃっと這いつくばらせてた(這いつくばらせるって変か)。

25歳のニコラ。
もう立派な大人。人生を謳歌し、前を向いて、キラキラと輝く道を歩き出す。
母を振り返る暇はない。
わかる、それ、私もそんな感じだった。
母の電話に面倒そうに応対したり、実家に帰る予定をすっ飛ばしたり(お母さんごめん)。

今まで、圭人くんが演じてきた役って、繊細なキャラクターが多くて、私はそれに寄り添って観てきた印象なんだけど、今回のニコラに関しては、それが少なくて。ニコラをかなり客観的に観てた感じ。
これはアンヌの脳内にダイブして、彼女の視点から物語を観ていたからかな。
だからニコラは、「息子」だったもので、それはもう過去にしか存在していなくて。今のニコラは母の知らないニコラで。

圭人くんのニコラはそのあたりの塩梅が絶妙で、ピリッと良いアクセントになっていた。他人のようなニコラの合間でときどき出てくる、優しくて、かわいいニコラが最高なんだけど、それすらも客観視できた。圭人くんだって思ったのは最初の登場シーンくらいかな(あのときの劇場の雰囲気すごかったね。一気に緊張が高まったみたいな)。
圭人くん、うまくなったなぁって言うの、上からであんま好きじゃないけど、いや、実際うまくなったと感じたよ。

力が入りすぎ?みたいなシーンもあったけど、この辺りは、繰り返すとバランス良くなるような気がする。その点では、初日のピリピリするニコラをしっかり覚えておこう。


ビジュアル視点では、ニコラ、ニットも似合うけど、後半のシャツ、ジャケットが死ぬほど好き(また言ってる)。

美しいシルエット。
横顔。
背中。
しっかりがっちり成人男子(来週の18歳ニコラ心配になるほど惚れ惚れする)。
すばらしくすばらしい。

あと、同じジャケットを着回す親子。ときどきびっくりするほど親子で。ああ、血が同じって恐ろしい。好き。

美術は、がっちり作り込まれていて、これを息子と同じ劇場でやれるの?マチソワで?って驚く。
照明と美術でフランスの雰囲気が出るのすごいよな。ここ、池袋ど真ん中ってことを忘れる。

アンヌの世界に、どぼんと飛び込んだおかげで、ラスト少し放心して、カテコで、あ、そうだ、圭人くんのカテコ見なきゃって我に返ったけど、もうなんかぼんやりしたまま、ショラーさんの笑顔と、4人のほっとしたような笑顔をなんとなく眺めて、ふらふらと帰宅したのでした。

追記:プログラム、みんな買うだろうけど、絶対買って。稽古場写真、大好き。

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