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ニコラとニコラ

そういや昔、圭人くん、ニコラという雑誌で連載していたよね。

3年ぶりの再演

圭人くんにとっては初めての再演。
18歳のニコラ再び、です。

思い出話は置いておいて、今回の再演のお話を。圭人くんのニコラ、簡単に言えばより深く、黒い穴に落ちていた。

不穏、ひたすら不穏

ニコラの感情の波は激しい、思春期によくある、楽しく話していたと思ったら急に黙り、怒る、反発したと思ったら、すり寄る。

自分でも何でそうなっちゃうのか、わかんないんだ、心にぽっかり空いた黒い穴。その正体が自分でもわからない。イライラする。不安。わけもなく突然涙が出る。

初演のニコラは、まだ幼さの残る18歳の甘さを多めに残していた。幼くて、弱い、守るべき子どもの面が印象に残っていて、わたしも盛大にニコラに感情移入していて、わんわん泣いたりもした。

今回、ニコラは完全に黒い穴に落ちていた。甘い部分を少し削ぎ落とし、刺々の体で薄氷の上を歩く、その不安定さが観る者を不安にさせる、この子どうしちゃったの?周りの人も大変だ…と。

ニコラの怖さというか、不安定さは前回よりも激しくて、こんな泣いてたっけ?って心がざわざわした。猟銃のくだりでピエールを詰問するところとか、どした急にって感じで、観ていてイラッとするところもあって、単に可哀想な子どもというだけではない、18歳という、大人と子どもの境目の狡さも伝わってきた。

でも、ニコラがそうなったのは、やはり周囲の大人の手の伸ばし方で、少しの掛け違い、思い込み、ひとときの感情で一喜一憂する、大人側の不安定さもまた、くっきりと浮き出ていた。

この物語は絶対にハッピーエンドにならない。知ってるから、ってことじゃなくて、もうそれが幕開けからビシビシ伝わる。みんなが納得できる終わり方はないなって、その重さが後半にいくにつれて大きく心を占めていく。

勝手に動くセットも、どうにも止められない物語なのだと痛感させられて、初演時は「暗転ないし、おしゃれ」とか思ってたものが、その、無言の壁が恐ろしく迫ってくる。

結局、この人も息子

ピエール
やっぱり健一さんがえげつない。
うまい、本当に、たまげる。
ラストのぐずぐずに至るまでの、徐々に落ちていく感じ、ニコラとはまた違う不穏。
実にゆっくりと、でも確実に父親の影に蝕まれていく。もう呪いだこんなものは。

自信に満ちた堂々としたエリート弁護士の、丸まった小さな背中。失ってもなお、理想を求めてしまう哀しさ、全てがもう完全にピエールで、ラストのシルエットは涙より鳥肌。

女たち

アンヌ
どうしても最後まで、ニコラを通してピエールの心を取り戻したいような気がしてしまって、寄り添えないんだよな…。
混乱するニコラに怯え、疲れ果て、夫にすがる。
ものすごい不安定。
仕事をもち、自立しているかのように見えて、どこまでいっても、愛される妻、母の理想を求めてしまう。アンヌはとても愛情深く、繊細で、ニコラの性格のベースはやっぱりアンヌなんだろうなとは思う。若村さん、すばらしいよね。同じように憔悴していても、「母」のアンヌとは全然違う。

ソフィア
あの家族のいちばん近くにいて、それはもう猛烈に巻き込まれて、でもピエールのことは見捨てなかった。強い。
ニコラとの出会い方がもう少し違っていたら、いちばんニコラに寄り添えたかもしれないひと。
それでもけっこう酷いことも言うんだけど、嫌いになれないのは、伊勢さんの雰囲気だよね。
基本、優しくて、強いソフィアが、未来を生きる希望を少しだけ残してくれる。

病院のひと

Dr.ラメス
初演の若干の胡散臭さ(髭か?髭が原因なのか?)よりは、信頼できる感じ。最終的には親に責任をぶん投げるのはまぁ仕方ないとしても、もう少し寄り添ってもらえたら…と思わないでもない。浜田さん好き。次回の劇団公演楽しみ(さりげなく宣伝)。

ヴァンサン
どうした?なんかキャラクターが弾けてなかった?
観客も戸惑うぽけっと感。癒し。癒しか?
この人に言われてもいまいち信用できない点は、ピエールと珍しく同意。今回、圭人くんが若干大きくなってて、ヴァンサンは振り切れそうな気がする。

周囲の戸惑う大人と一緒に、ニコラのために何ができるのか、どうしたら良かったのか、何度も考える。最後は自分の家族を想うのは初演時と同じで、本当によくできた戯曲なんだなぁと。それを日本語で違和感なく、身近な物語として成立させるキャストもすばらしく、加えて、こんな濃厚で上質な芝居を同時に観られるのは300人だけという、なんとも贅沢な空間。

キャスト、スタッフのみなさんの気持ちが、作品に魂を宿しているのが、びしびし伝わりました。

この先も、どうかたくさんの人にこの物語が届きますように。

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