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朗読劇と俳優と

舞台の感想は勢いが大切、その時感じた気持ち、それをさくっと切り取り、大切にスクラップするために、とにかく書く。意味わかんなくてもいいの。自分のため。

ラヴ・レターズ PARCO劇場公演

朗読劇でここまで準備する人に、私は出会ったことがない。ラヴ・レターズ公演に向けて、アンディーの書いた手紙を実際に書く。しかも、シーンに合わせて、カード、筆記用具、字体まで変えて、丁寧に、メリッサに綴る、170通をこえる手紙の束。
藤田さんが「個性的」と表現したのも頷ける。
いつでもひたむきで、まっすぐ、わからなければ、とにかくやってみる。で、お馴染みの圭人くん。
今回も、ほんとうに頭が下がる徹底ぶり。
呑気に椅子に座って観てていいんだろうか、なんなら観劇中に空気椅子くらいしないと頑張りに応えられない気がする(やめとけ)。

アンディーとメリッサ

ラヴ・レターズは、アンディーとメリッサ、ふたりの裕福な白人アメリカ人の50年にも及ぶ手紙のやりとりの抜粋の物語。演者は8歳から50代までを、手紙の朗読で表現する。

一幕 圭人くんと若村さんは、明るく快活。お金持ちの家に生まれ、不満はあるけれど、不自由ない暮らし、疑いのない未来。

もっと静かで、淡々としたアンディーもいたけど、圭人くんのアンディーはとっても明るい、かわいらしい、喜びにあふれた毎日を感じる。ちょっとアホっぽい(褒め)。

かわいい…。

紺色のスクールセーター、ネクタイ
緊張した表情で下手から入場し、椅子に座ると小さくため息をつき、緊張を逃す。きっとこれが圭人くんのルーティンなんだなと。
大きな手で戯曲を開く。
呼吸を合わせて読み始める。
劇場の張り詰めた静けさを割くように、伸びのある発声。
圭人くんて、インスタライブを見ても、普段の喋り方はおっとり、ふわふわなのに、舞台に立つとすごく通る声。きっと発声が違う。
2年以上、みっちり基礎を叩き込んだだけあって、とても聞きやすい。

アンディー、予想より元気出いっぱいだった。
膝を開いて深く座り、メリッサからの手紙に表情がころころ変わる。

かわいい。

若村さんも、本当にうまい。
少女そのもの、呼吸、間の取り方。

わざとらしさが無くて、自然なふたりのやりとりが、少年と少女のそれ。
親に反抗し、学校を窮屈に思いながらも、恋と性に目覚め、青春を謳歌する。
時折り見せるメリッサの暗い影。
10代の危うさを繊細に、でも快活に、切れたと思った関係も、ちょっとしたきっかけでまた始まる。
ふたりは楽しそうに、リズムよく読み続ける。

そういえば、今まで割と見てきた、圭人くんのクセ、髪を触る、顔に指をあてる、が全然無くて、手は膝に置かれてた。
でも全身少しずつ動いていて、体全体でアンディーを表現している感じだった。椅子に座っているのに躍動感があった。

二幕は、一幕の無責任な明るさは無くなり、人生における背負うものの重さと、途方もなく押し寄せる必要な選択の繰り返しが続く。
ふたりの手紙は次第に近況報告だけになり、ついには季節のカードのやりとりだけになっていく。
お互い、自分の人生に忙しくなってくる。
この感じ、大人になってよくわかる。
大人になると自分の内面とじっくり向き合うことって少なくなって、おおよその予測で生きていけるようになってしまうもんな。

圭人くんのアンディーは、胸を張り、スーツを着こなし、胸には高級万年筆。
声色は低く、落ち着いていて、自信に満ちている。
きっと衣装が同じでも時間の流れを感じることができただろうなと思うほど、纏う空気が違う。
表情も余裕がある。
メリッサはゆったりと腰をかけ、足を組み、枠から出られないアンディーの手紙を冷めた目で見つめる。落ちていく自分を自覚しながらもどうにもならず、救いを求めて依存傾向に。
アンディーは輝かしい現在と、希望に満ちた未来を語り、メリッサは今を嘆き、昔を懐かしむ。

このままフェードアウトかと思っていたら、ふたりは手紙のやりとり以上の関係になり、それまで続いていた関係ががらりと変わる。
メリッサが求め、アンディーは戸惑う。
ここのアンディーほんと嫌って思うけど、きっとアンディーの立場ならこうなる。メリッサもアンディーに寄り添うことなく要求が増えていく。どちらもなー…。やっぱ不倫苦手…。

最後は静かに終わりを迎える。失って涙する、愛と喜びと、後悔と懺悔と、これが人生。
圭人くんのアンディーは、失った愛の大きさを嘆き、悲しみが全身を覆う。

それでも、最後は、愛された喜びと、愛した喜びを噛み締め、出会った頃の自分としてメリッサに呼びかける。



個人的にはアンディーもメリッサもそんな好きなキャラクターでは無くて、お金には困らなくて、不自由ないのに不満が多くて、利己的、選民意識、差別的、周囲を馬鹿にして、認めない。他罰感情多め。

悪口多くてごめーん!
ふたりにだって色々あるのはわかる(特にメリッサ)。人生そんな薄っぺらじゃないし、その世界にしかわからない苦しみや痛みがあるのもわかる。でもあんまり寄り添えないってのが正直なところだったんだけど、今回はその嫌悪感みたいなのが少なくて、そりゃ好きな人がやれば痘痕も靨ってなもんなのかと思ったけど…それでも今回は、時間をともに過ごせたと感じたし、笑って、涙したのは、やっぱりふたりがアンディーとメリッサにとても寄り添った芝居をしていたからで、懸命に、支え合えながらも、いつまでも交じることのない人生の孤独と愛を同時に表現していたからかなと。そう感じた次第です。

少しずつ暗くなる照明に、物語の終焉を感じるあの演出が大好き。

圭人くん、若村さん、藤田さん、素敵な時間をありがとうございました。奇跡の瞬間が、わたしにもありました。

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