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それを言ったらおしまいよ

ハムレットがややこしいこと言わなけりゃ、悪は悪としても、そこそこ平和だったんじゃないの


江戸川ハムレットを経て、わたくしのハムレットとの旅路はとりあえず終了しました

ぶっちゃけ、ハムレット殿下は苦手で、観るたび、にしても悩み過ぎじゃね?周り巻き込み過ぎじゃね?って冷めてしまうので、今回こそ、しっかり準備していこうと、河合先生の「100分de名著」を購入、オンデマンドで放送回もチェック。

これ、ほんと、おもしろいのでお勧めです
稽古場の圭人くんの机にもあったね

ハムレットと名のつく映像を片っ端から観た(久しぶりに岡田将生のハムレット観たら、思ったよりイカれてて良かった)。

結果、ハムレットが単に復讐するか否かを悩むだけじゃなく、人としての生き方、人間存在を繰り返し問うているのだと、ふわっと理解。ふわっとね、ふわっと。でも、ふわっとでも理解すると、この物語はギアが数段上がって面白くなる。今までは、私が不勉強で楽しめなかったところもあったんだなー、ごめんよ歴代ハムレット!

ハムレットは悩む、初めは復讐に取り憑かれ呻くが、途中から、先王のことなんて微塵も話さなくなって、自分はどう生きるべきなのかを繰り返し考えるようになる。この「悟りハムレット」がスマートにクローディアスを王座から下ろしていたら…かなり優秀な王になっていたかもとは、私も思うよ、フォーティンブラス君。

今回の裕基くん、プレビュー、初日あたりはやはり硬いような気がしていたけど、ぐんぐん良くなって、ホレイシオとの距離も友人のそれになり(江戸川で、ハムレットがホレイシオとハグして、くるくる回るの久しぶりに見られてうれしかった)、最後は圧倒的にハムレットだった。
ハムレットって、ナルシストっぽいと思い出すと、とても独りよがりに見えてきて、共感性が下がると思うんだけど、裕基くんにはそれがなくて、なんか素直で、悩めるいいハムレットだった。

でも一度火種となった復讐の連鎖は止まらない

レアーティーズ
理不尽に父を殺され、妹を無惨な姿に変えられた

いや、ほんとさ、ポローニアスに関しては余計なことに首突っ込んで自業自得感は多少あるけど、レアーティーズに関しては一切何にも悪いことしてないからね。

しかも、レアーティーズって最後は孤独

ハムレットには、母とホレイシオ、ローゼンクランツとギルデンスターン(スパイだけど)、
王子であるが故に、その存在を支える人が多い。
レアーティーズは家族を亡くし、ひとり。
民衆の支持があったとは言え、それも都合よく使われた感満載で、オズリックも支えるような存在では無さそう(あれは面白いおじさん)。

そこへ寄り添うクローディアス
ああー!一番ダメな人なのよ〜!その人!

わっるい顔してるで

悲しみを分かち合い、共に怒り、復讐の手助けをしてくれる(と思わせてくれる)クローディアスに、レアーティーズは、あっさりと心を許す。

結果、後悔のまま、死の間際に許しを願うレアーティーズ。
彼の孤独な魂が救われますようにと、こちらも願わずにはいられない。

ハムレットの物語は、当然だけどハムレット中心に進んでいく、そんな訳で、今までハムレット以外の登場人物に心を寄せることってあんまりなかったなと。せいぜいオフィーリアについて考えるくらいで…。

今回、レアーティーズ、クローディアス、ガートルード…ローゼンクランツ&ギルデンスターン…それぞれの登場人物が、話す言葉をよく聴いて、全員が生きているんだなと感じて、これはなんか新しい感覚だった。
萬斎さんがそのように演出していて、更に俳優がキャラクターについて考え抜いて、板上で生きた結果、難しいシェイクスピアの言葉が生きて伝わったのかなぁ。とにかく活き活きとした言葉たちが、古典じゃなくて、現代にも通じる人間ドラマを生み出していた。

特に圭人くんは、感情乗るタイプなので、完璧に生きていた。レアーティーズ出立のシーン、あんなに可愛らしく、感情豊かにやる人あんまりいない。
今までみたハムレットでは、恋にはしゃぐオフィーリアに釘を刺す、落ち着いたキャラクターに見えてたんだけど、圭人レアーティーズは自分の旅立ちのワクワクと妹を残す心配、家族への愛情が同時に伝わってきて、あそこだけ朝ドラのようなほのぼの感で、客席を沸かせていた。
それが後半の復讐のレアーティーズに綺麗に繋がっていくのも良かった。

レアーティーズは真っ直ぐ、熱情の人、前半の愛され愛するレアーティーズがいて、それがブレないから、あんなに怒っているし、悲しんでいるんだなと、納得。
こういう、ひとつひとつの「納得」の積み重ねって割と重要で、俳優の役の落とし込みが甘いと、シーンごとの感情表現のぶつ切りになってしまって、「この人、こんな風に泣くかなぁ…」とか、変なとこ引っかかって話が入ってこないときある。
圭人くんって、前からそれが少ない。キャラクターが泣いているし、笑っている。
圭人くんが、作品ごとに違う人に見える。
そこを強く感じた今回の公演だった。
もはや新人とは呼べない。

一方、ローゼンクランツ
こちらは、コミックリリーフ的立場で、場を和ませ、笑いを起こしていく。
そもそも、いいとこの坊ちゃんと思われるローゼンクランツ(なんってったって、バラの冠ですよ)、自分たちが何故呼ばれたのかもわからない。オロオロと右往左往し、最終的に、ほぼナレ死。
ハムレット殿下は大切な幼なじみ、なぜ自分たちに冷たくあたるのか、彼らは本気でわかってない。
その、わかってなさ加減が絶妙で、ひとりなら途中で、これはおかしいと思うこともあるんだろうけど、ギルデンスターンって相棒がいることで、疑問を持たなくなっちゃう。お互い頷きあって、自分たちの行動を認め合うもんだから、問題をスルーしちゃう。スパイ役がふたりでいる弊害が見えてきたりして、おもしろかった。

ふたりできゃっきゃしてるから〜…

まとめ

萬斎さんの考えるハムレットは、実に人間味に溢れた登場人物たちの、壮大だけど、わかりやすい物語にアレンジされていて、素晴らしく好みだった。

その演出プランを表現できる優れた俳優の言葉と肉体、衣装が、狂言舞台風のシンプルステージで、息を呑むシーンの連続を作り出していて、若手、ベテラン、ジャンル問わずのキャスティングにも大納得✨あっという間の3時間半。

キラキラと煌めくステージはもう戻ることは無いけれど、この作品はテレビ放送も決まっているらしいので、この先もまだまだ楽しみは続きそう。

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