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楽園巡行 副読本

楽園巡行

 こちら、弊サークル(元)『最も憂鬱な僕』が第六回秋季例大祭にて頒布させていただきました蓬莱人形風味を感じるCDこと『楽園巡行〜Quantum ad orientalem historia』です。

 今回はこちらの作品について、軽く紹介と考察のお邪魔にならない程度の解説をさせていただこうと思います。

筆を執った理由は、考察ツイートを発見して拝見させていただいたところ、「ウッキー!今年は寅年!」といった風に当方の気持ちが昂りまくったということです。有難うございますいつもホント~(おばちゃん)

因みに再販予定は今のところないので、私のSoundcloudに投稿したものを聴いて頂ければと思います。


さて、本題に入りますが

このCDのブックレットは蓬莱人形初版のストーリーをもとにして、あーだこーだと設定を考えています。

本当は刷る枚数も本家に合わせて70枚程度にしようと思ったのですが、料金的に断念したのはここだけの話。(今在庫確認したら30枚ほど残っていたので、実質出回っているのは70枚ほどということで…)

お気づきの方もいらっしゃったのですが、パラレルワールドの蓬莱人形ということで作成しておりますゆえ、「テメェ、蓬莱人形のストーリーと関係ないじゃねぇか…」とか「ジャケレベはどこ…?ここ…?」とか怒らないでネ。


☆登場人物について

 ブックレットでは本家同様8人の正直者が登場します。

本家では『最も好奇心の高い僕、最も早起きな僕、最も美しい僕、最も幼い僕、最も臆病な僕、最も聡明な僕、最も大人びた僕、最も警戒心の強い僕』の8人、

楽園巡行では『最も欲張りな僕、最も怒りっぽい僕、最も誠実な僕、最も健啖な僕、最も高飛車な僕、最も艶やかな僕、最も悋気深い僕、最も物ぐさな僕』の8人です。

 本家とは対照的に、全体的に人物の呼び名に対してネガティブな印象を受けるようにしました。考察を拝見させていただいたところ、その真意というか元ネタに気付いてくださった方がいらっしゃったのでここで軽く答え合わせなのですが、七つの大罪をモチーフにして呼び名を決めました。それぞれ『強欲、憤怒、暴食、傲慢、色欲、嫉妬、怠惰』といった具合になっていて、そのまま使っても芸がないので「〇〇 類語」で検索してわかりにくそうなものを選んだつもりでしたが、ここまで考察していただけるのは非常に嬉しいものです。作者冥利に尽きまくってます。

 そんなこんなで呼び名のモチーフを紹介しましたが、ここまでネガティブな要素を抱えつつ彼ら?彼女ら?が正直者たり得た理由は何でしょうね?

 ストーリーの動機も本家が『楽園に迷い込んだ』ということなので、こちらは『足を踏み入れた』というように自発的なものにしています。『誰』から聞いたかもわからない財宝を目当てに、楽園に入っていった愚か者たちには相応しい最期といえるでしょう。

 


☆ブックレット本文

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Story
桃の木の脇にある小さな穴。
その先には楽園があって、財宝が沢山眠っているという。
はて、誰から聞いたんだったかな…
正直な僕ら八人はすぐに興味を持ったさ。
だから僕たちは好奇心から楽園に足を踏み入れただけだったんだ。


1.
最も欲張りな僕は、すぐにみんなを置いて走って行ったのさ。
誰にも財宝を取られたくなかったからね。
森の奥で誰かが立っていて、綺麗な桐の箱を持っていたんだ。
僕に近づいてきて、足元にその箱を置いたんだ。
僕がそれを拾おうと身を屈めたら、首だけが地面についたようだ。
残りの正直者は七人になった。

2.
最も怒りっぽい僕は、一人が勝手に駆け出して行ったことに腹を立てていたんだ。
少し落ち着こうと思い、空を見上げると白と黒の二色の魔女が無数の星とともに飛んでいたんだ。
伝えようとしたころには魔女もみんなも消えていて、後に残ったのは僕と背後の誰かだけだった。
確認をする間もなく、視界が暗闇に閉ざされた。
残りの正直者は六人になった。

3.
雨は恐ろしい嵐になり、僕たちは全身濡れてしまったので近くにあった廃れた洋館で雨宿りをすることにした。
館の中を歩き回っていると、美しい形をした小瓶を見つけた。
微かに甘い香りが漂ったようだった。

4.
誰も住んでいないようなので、ここを新しい住処にしようとみんなは喜んでいた。
夜、六人はその祝いの席として異国風のパーティを開催した。
最も健啖な僕は、豪華な料理に胸を躍らせ、次々と口に運んだ。
ふと、ある料理に何か盛られていたことに気づいたけれど、すでに飲み込んでしまっていたんだ。
そしてもう二度と食事を楽しむことも出来なかった。
残りの正直者は五人になった。

5.
僕は、一人が毒で殺されたのを見つけてしまったんだ。
警戒して、他の四人にはこのことを伝えなかった。
だっておかしいだろう?この館には六人しかいないのだから。

6.
最も高飛車な僕は既に気が付いていた。
他の三人が余りにも愚かだったんだ。
あいつが気違いになった時点で殺しておくべきだった。
僕は館を走って抜け出し、楽園の出口を探した。
当然見つかるはずもなく、息もあがっていた。
後ろに追い付いてきた何者かの気配を感じて、
何もかもを諦めた。
そしてあっさり首を切られてしまったのさ。
残りの正直者は四人になった。

7.
僕たち正直者は最初の半分になってしまっていた。
空いた席を眺めながら、僕は朝食を配膳していた。
以前はあんなにたくさん食事を用意していたのに、
今は少しで済んでしまっている。

8.
最も艶やかな僕は、恋をしていたんだ。
精一杯に着飾って、少しでもよく見えるようにしたかった。
髪を整えようと鏡を覗き込むと、何者かの影が写り込んだ。
腹部に冷たさを感じたあと、熱いものが脚を伝って床に落ちた。
残りの正直者は三人になった。

9.
罠に嵌めるくらい、なんてことないんだ。
大がかりな仕掛けなんて必要ない。
想像力を働かせて、あとは少し手を加えるだけで十分なのさ。

Interlude
僕が家に着いた時、君は器用に阿片を丸めているところだった。
「どうだい?」と君は僕に勧めてくる。
恐る恐る阿片を手に取り不器用に丸めながら先ほど見た光景を
興奮気味に話すが、君はつまらなさそうに笑ってまるで
取り合ってくれない。
あぁ、また阿片が焦げてしまった…

10.
長い夢を見ていた気がする。
いつか見たサーカスの鳥人間。
まるですべてを諦めたかのような表情を観客に
向けて、機械のようにひどくぎこちない動きで
踊っていたんだ。

煌びやかな照明や音楽と対照的で、唯々
暗い踊りに気分が悪くなった。

11.
最も悋気深い僕は既に虫の息だった。
他の二人に隠れて、自ら毒を口に含んだ。
想い人も消え、生きていても仕方なかったんだ。
ゆっくりと眠るように僕は意識を手放した。

12.
最も物ぐさな僕が目を覚ました時には、
何もかもが終わっていたんだ。
一人は刺し殺され、二人は毒で殺された。
そして縛られた僕の前には、五寸もの釘と
金槌を手に持った人影が立っている。
最後まで僕は仲間を殺した犯人に気が付かなかった
わけだ、なんて馬鹿なのだろう。
手足が打ち付けられ、ついに眉間に釘を当てられた。
そこには予想通りの顔が見えた。
そして声をあげる間もなく、僕の意識は途絶えた。

そして正直者は全員消えた。

13.
死体は妖怪がすべて持っていき、あとには何も
残らなかった。
結局楽園に眠る財宝を見ることすら叶わず、
みんな消えていったんだ。
いや、本当はそんなものなんて無いと、
一人を除いて誰も気づけなかった。
幻想郷にとっては、正直者を永遠に失ったところで
ただの数値の変化でしかない。
森を出ると紅と白の巫女が立っていたんだ。
すれ違いざまに軽く舌を出して、会釈をした。
そして、大笑いしながら楽園から出ていったのさ。

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以上が楽園巡行のブックレットの内容になります。

上記の通り、この物語では楽園に運がよいのか悪いのか迷い込んだわけではなく、財宝に目が眩んだ愚か者たちが足を踏み入れるストーリーになっています。

それぞれの罪を抱えた正直者たちが思い思いに楽園に侵入し、消えてゆくのが大まかな流れではありますが、果たして全員が全員その財宝を目的にしていたのでしょうか?何か別の目的を持っていたとしたらそれは何か、という観点から考えると妄想が膨らみますね(私自身そんなに詳細なことはあまり覚えてないので、考察としてこの記事を書いているくらいです…)

 余談ではありますが、CDの副題『Quantum ad orientalem historia』はラテン語で『東の国の物語』を意味します。8人の正直者の残した物語を続編で更に見ていけるようにしたいと考えつつ鋭意製作中です。因みにラテン語である理由は、正直者たちのモチーフである大罪がカトリック教会の教えによるものであり、カトリック教会ではラテン語が公用語とされていたことに起因します。


☆曲について

 収録曲についてこんなことを想定しながら作ったというのを思い出せる限りで書いていきます。一応アレンジに関しては勿論好みもありますが、設定と合わせて選曲しております。複数の方にお願いをして参加していただいたので、私の自作曲とアレンジについてのみのコメントとなってしまいますがご容赦くださいませ。

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1.楽園巡行~Far east paradise

 取りあえず最初の曲なので、大いに蓬莱伝説を参考にしました。これから始まりということを感じさせつつ、最後は不安を残すような終わり方をすることで暗雲とか立ち込めたりしないかなぁ、という想定で作ってました。ブックレットのストーリーが最終的にバッドエンドになるということを曲でも意識させたかったんだと思います。

2.涅色白胡蝶~Black or White

 勿論あの曲のオマージュです。魔理沙版を意識して盛大にオマージュしました(大事)。1曲目とは対照的に元気が良く、勢いのある感じにしてみました。兎に角明確に『こういう曲!』というビジョンがあったので完成も早く、無料版の時にも一番評価の高い曲だったのではないかと思います。楽園巡行の続編にあたる作品群をノロノロと作っておりますが、そちらでもセルフアレンジが収録されておりますので、よろしければお聴きになってください。

3.昭和15年の鹿鳴館

 『明治十七年の上海アリス』を意識したタイトルになっていますが、曲は雨の効果音から始まり仄暗くも激しい音楽になっていると思います。昭和15年は鹿鳴館が取り壊された年ということもあって、もう現世には存在しないということで楽園に登場させてみました。終わりの始まりにもちょうど良い曲名だと自負しております。因みに余談ですが、ニコニコ動画に投稿したときに頂いた『殺しに入ってきたみたいでビビった』というコメントでクスっとなりました。

5.Deceptive Children

 このCDで最も暗く激しい曲になる予定が不発に終わった曲です。当時『中途半端に激しい…どうしたものかね』と悩みましたが、半端で愚かな者たちのテーマなのでピッタリだと思い、敢えてそのまま収録することにしました。しかし、燃焼しきれなかった分続編では大暴れしたいと考えています。

6. Magical Girl's Crusade

 『魔法少女十字軍』のアレンジです。ボス曲というよりも読み物ならぬ聞き物を目指して、あまり激しくならないようにしました。さて選曲の理由ですが、皆さんは十字軍がどういったものかご存じでしょうか?エルサレムやイスラム等の遠征について講義で取り扱うことも多いかと思いますが、基本はキリスト教圏の奪回や異端の討伐が目的とされるそうです。楽園が『誰か』にとって聖地であるなら、踏み荒らすものは当然異端ですよね。

7.夢少女は眠らない

 初めて作った東方風自作曲のセルフアレンジですね。思えばそこからCDを出すに至るまで大分長かった。昔から関わってくださった方々への感謝も兼ねて、知っている人は思わずにやけたくなるような選曲です。それ以上でもそれ以下でもないので、恐らくこの曲が最もこのCDの内容自体には関係ない曲です。

8.薄れゆく紅の散る頃に

 この曲も明確にコンセプトがあった曲で、恋塚みたいな曲が作りたかった…というやつです。やはり技術と勉強不足が否めず、思っていた通りには完成しなかった曲ではありますが、『桜の花びらが散るという死と新しい命の芽吹き』をテーマに作っていて何となくそんな雰囲気で聞こえるから良いか、といった感じです。因みに続編でも一応恋塚風のものが収録されておりますが、完全にこのCDのリベンジです。

10.踊り子ピエロ~Spectacle child

 このCDでは最も内容に関係のある曲です。鳥人間の鬱々とした踊りを想像しながら関連したストーリーを無料版の方で書いておりまして、

ここはこの楽園で最も人気のあるサーカスさ。
ゴクラクチョウと人間の間に生まれた僕は大勢の奇異の目に晒され、今日も踊るんだ。
これでいいんだ、これでいいんだ。
舞台のほうから「…うちの劇団で助けてあげたって訳だ。えらいだろう?」と聴こえた。
そろそろ僕の出番さ。

といった具合に、量産版蓬莱人形のストーリーにおける鳥人間視点を勝手に解釈して書いたって訳だ。えらいだろう?個人的にはテーマの諦観と一番雰囲気があってて好きな曲です。

13.Peaceful Romancer

 正直者は全員いなくなり各々が幻想の中で永遠の眠りにつくわけですが、せめてその夢の中だけでも平穏であれと思ってこの曲をアレンジしました。というのは後付けの理由で、単に製作中にたまたま聴いたPeaceful Romancerが刺さったからでした。このCDのエンディングテーマにも相応しい後付けの理由を思いついてからの行動は早かったですね。リーインカーネイションっぽくしつつ、幽夢のフレーズも入れてみたりして色々遊んだ曲でした。

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以上が各曲に関する解説になります。何かの参考になれば幸いです。


☆ジャケットと盤面のあの子

 盤面(サークルカット)の子に関しては書いて保存したのテキストが全く残ってなかったので軽く触れる程度にしますが、ティーポットを持っていたので勝手に『茶子(ちゃこ)』と呼んでいました。

 ジャケットのあの子は当初最も誠実な僕にしようとしていました。Twitterの方にもそういった文章とともに絵を投稿しましたが、明言するのも面白くないので全く別の存在にしようと考え始め、結局正体不明の少女に落ち着きました。そもそもこの二人は並行世界におけるジャケレベのような存在を意識して作ったため、衣装の雰囲気があの二人とは逆になるようにしました。

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☆あとがき

 まずはここまで読んでいただきありがとうございました。CDを出した当初ならもっと書けたかもしれず、中途半端に覚えていることを書き連ねたので情報が足りていない部分も数多くあるかと思います。それに関しては大学のPCの中に多分設定が残っているかもしれないので、見つかり次第更新していこうと思います。

 正直な話をすると皆様にウケのよいCDではないと思いつつ作っていたのもあって、たまにTwitterで検索したりYoutubeのコメントを見たりしたときにお褒めの言葉をいただいているとにやにやが止まらなくなります。今回の記事も考察をしてくださっている方がいらっしゃったことで書いているのもあって、やはり聴いてくださっている方々の声って大事なんだと改めて感じました。ありがとうございます。

私からは以上です。

最も憂鬱な僕


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