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コッペパンをテイクアウトした。
車の中にほのかに苺の香り。
お雛様が頭に浮かんだ。

私が生まれてから購入されたお雛様は七段飾りで、飾ると寝室は圧迫され隅に追いやられて遠慮がちに眠らなければならなかった。
雛祭りが近づくと、ひなあられや桜餅、そして苺が雛壇に供え(?)られる。
下二段の花嫁道具たちも定位置からずらされて肩身の狭い思いをしていたかもしれない。
だんだん、甘酸っぱい香りが部屋に満ちていく。
寝室なのにいつもと違っていて、寒くて毛布にくるまって電気あんかが手離せなかったのがだんだん暖かくなっていって、太陽も明るくなっていって。
そして雛祭りにはちらし寿司を食べ、夜は豆電球じゃなくてぼんぼりの灯りの中、眠る。

片付けという非日常が終われば、あとはもう日常だ。

数年前、もう七段飾りはやってられないと全て人形供養に出してしまった。
雛祭りは日常とあまり変わらない日になった。

苺を食べる機会は他にもあったけれど、それでも真っ先に思い出すのはお雛様。

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