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一期一縁

「そうなのよー、甘い物って急に食べたくなるのよねー」
僕の地元にある、女性店主は笑っていた。

昼間、不意に甘い物が食べたくなって、スイーツサロンがある銀座へ行こうかと思い、連れ合いを探していたのだが、タイミングが繋がらなかった。

仕方が無いと夕飯の買い物をして、コンビニで甘い物でも買って我慢しようかと思いながら帰路をぷらぷら歩く。
ふと道の先にあった、木の立て看板が飛び込んで来た。
そういえばケーキ屋さんがあったなぁ、と思い出した。
夕方には店を閉めてしまうその店の前を通ることはあっても入った事はなかった。

手作り感のある看板にその日のオススメケーキがチョークで書かれているその店は『パティスリー ナチュール』という。
ショーケースが一つある程度の小さな店の中に入って行くと、閉店前の夕方だからなのか、4・5個のケーキとシュークリームが置いてあるだけだった。

フロマージュケーキにしようと奥から出て来た女性にお願いし、お会計をしていると不意に、
「アナタの叶えたい事ってなんですか?」
と聞かれた。
財布から顔を上げると、はじめて入る店で、はじめて会う人なのに、とても気さくな笑顔だった。
どうやら自分の好きな事を叶える為に、自分の好きな事を仕事にしたのがこの店なのだそうだ。
彼女が35歳の時に、「10年後のなりたい自分は?」と聞かれたそうだ。
その時彼女は、「10年も先の事?!」と思ったそうだ。
彼女の唐突な問いかけは、自分に対する10年後のなりたい将来の夢は何ですか?という質問だったみたいだ。

自分はカメラマンをしているという話をした。
人を撮影するのが主な仕事だという話もした。

彼女は自分が叶えたい事を実現する為に、
この店で稼いだお金でバックパッカーをしたりするそうだ。
旅行と甘いものが好きで、旅やこの店で、毎日違う人と、年齢も性別も違う人と出会う事が好きだという。

「今日はお休み?」「何か特別なの日なの?」
不意に甘いもの食べたくなった事を話すと、
「そうなのよー、甘い物って急に食べたくなるのよねー」
と、大きな笑顔を見せてくれた。

短いながら話をしていると、店の中にあった覚え書きが眼に留まった。
「足るを知る」
そして
「一期一"縁"」
素敵だった。
「足るを知る」は自分でも分相応というのを考える事が増えていたが、
その下の「一期一"縁"」は、この人だからこの二つを一緒に書けるんだなぁ、と感じとれた。
思わず、覚えておこうと写真撮らせてもらった。

そして、また女性店主は、
「得をしたかったら、人なのよね。スーパーのチラシを見て、安いものを買っても次に繋がらないのよ。信頼しているお肉屋さんを選んで、そこで買って、そしたら自然とおまけしてくれたりするのよね。」

そういって、シュークリームをおまけしてくれて、また大きく笑って送りだしてくれた。

帰って食べたケーキとシュークリームは、
クリームが濃厚でけれどしつこくない優しい味。
今度は、誰かに食べてもらう為に買って行くんだろうなと思う、そんな味がした。


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