『首相支配』(中公新書で学ぶ現代日本の政治③)

 今回は、『首相支配 日本政治の変貌』(竹中治堅、2006年)を取り上げます。本書は、1994年の政治改革から始まり、橋本行革を経て小泉内閣による郵政改革の実現に至るまでの過程を扱っています。2006年の本なので、安倍内閣の評価は当然、まだありません。第1回で取り上げた『日本の選挙』(加藤秀治郎、2003年)と第2回の『自民党』(中北浩爾、2017年)とも所々で内容が似通ってはいます。しかし、タイトルが示唆するように、本書はその政治史を眺めるにあたって、どのようにして首相の権限が強化されていったのか、という点に照準を合わせているのが特徴的です。また、上記の2冊とは異なり、本書は主に新聞記事を参照してこの間の歴史をジャーナリスティックに描き出すように工夫しており、最初読んだときは新聞記者出身の方が書かれているのかと思いましたが、財務省出身の方のようです。そういえば、大蔵省の権限が縮小したという部分にもかなりの紙幅が割かれています。

ちょっとした感想

 私がまだ子供の頃には、ビートたけしのTVタックルなどの番組で、政治家のいざこざを面白おかしく寸劇にした「永田町劇場」みたいなものをよく目にしましたが、本書の書き振りはそのような感じです。そのときの政治抗争の内容を細かく頭に入れる価値があるのかどうかの判断は今のところ保留していますが、必要になればこの本に戻ってくるのもありかなと思います。
 時々Youtubeで本書で取り上げられた当時の様子を見つつ(例えば以下のような)、興味深く拝読いたしました。まあ、良かれ悪しかれこのような政治劇がテレビで見れたのは、この時代が派閥政治の最期であったからだと思われます。それ以降は、首相官邸の権限が大きくなったことで政治の質が変わって多くは官邸の中で発生しており、政治が見えにくくなったのではないかと思われました。メディア史の観点から同じ時期を見直しても面白そうです。

首相の権限はどのように強化されたか

 これまでのノートの2回で詳細にメモを作った部分と重なりますので、今回はあっさりめに書いてみたいと思います。

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 大雑把に首相への権限が移行する前と後の図をイメージにしてみると、こういう感じかと思います(第2回のノートに掲載した図を増補しました)。
 1994年の政治改革で中選挙区制から小選挙区比例代表並立制へと変わり、政治資金に関する法制度も変化したために、派閥は存在意義を失いました。かつての制度は族議員を生み、これが関連省庁と友好団体(企業・団体)との調整を行っていました。自民党はいわば派閥という名の複数の党が連立与党を組んでいるような状況であり、首相=自民党総裁=派閥の領袖は、他の派閥との利害調整をしっかり行わないと、国会で法案が通過するわけもなく、何も決められなかったのです。
 しかし、新たな選挙制度の下では、党本部の公認がないと、強力な個人後援会をもつ世襲議員でない限りは、選挙戦で勝てません。反対するなら次は公認しないぞ、という脅しが可能になったわけです。厳密には公認の決定は幹事長の権限であり、かつては総幹分離という現行の総裁の出身派閥からは幹事長は出さないという慣行があったのですが、それもなくなりました。さらに、党の公認ということに加えて、小泉時代に象徴されるように、国民から支持される選挙の顔としてのイメージが重要になり、内閣支持率がそのまま選挙の結果に繋がるようになります。
 また、小選挙区制が導入されたことで野党の統合が模索され、新進党や民主党といった政党が生まれますが、彼らが主張した政策の一つが行政改革であり、国民からの支持も高まり始めました。政策通として知られた橋本龍太郎自身も行革に積極的でしたが、これらの新興勢力を押さえ込むことの必要性も後押しして、自民党が野党に先んじて具体的なプランを提示することに成功します。そうして2001年に実施された改革では、内閣法の改正による内閣官房の機能の強化、閣議における首相の発議権の明記、経済財政諮問会議の設置など、首相が政策立案を直接主導できる制度が整備されました。小泉首相の破天荒ぶりは、これまで積み重ねられてきた自民党での法案の事前審査においてコンセンサスを得ることなく、総務会では国会審議に付すことだけが可決されて国会論戦へと移り、造反議員を多く出しながら法案可決で向かっていくというようなことにも現れています。郵政解散後の総選挙では、造反議員の小選挙区には刺客候補が送り込まれました。
 他方、首相の権力が及ばない存在も明らかになりました。参議院議員です。かつては自民党が過半数をとっていたので参議院は「カーボンコピー」と呼ばれて問題はなかったのですが、新党の登場でしばしば「ねじれ国会」が生じるようになったこと、また参議院は衆議院と違って解散されないし、議員も6年の任期が保障されているので次回の公認権を与えないといった脅しは比較的効きにくいということから、郵政改革を断行する小泉首相も、参議院だけはどうしようもなかったのです。参議院で郵政改革法案が否決された小泉首相の奥の手は、衆議院の解散であり、その結果として3分の2以上の議席を獲得するということでした。参議院で否決された法案を通すために衆議院を解散するということは前代未聞でした。参院での否決直後の演説で小泉首相は自らをガリレオ・ガリレイに喩えつつ、国民に信を問うことの必要性を訴えました。

 このように権限が法的にも実質的にも総裁=首相に移行していったわけですが、その後の安倍内閣でどのような展開を見せているのか、それはこの本の先の話になります。

 前回取り上げた書籍『自民党』によれば、安倍首相はかつて小泉氏が「古い自民党をぶっ壊す」と言ったときのような反派閥の姿勢をとっておらず、自身の潜在的なライバル(石破、谷垣、二階)を幹事長に起用するなどの宥和政策をとることで、今なお残る党内派閥のバランスをとることに気を配っています。また、国民から広い支持を集める選挙の顔としてのイメージを軽視しているわけではないですが、地方組織や友好団体との関係の再構築を試みるなど、低い投票率で安定的に勝つ状況を維持しているようです。
 内閣提出法案やその他政策の事前審査については、これは小泉時代にも決して廃止されたわけではなく、現在も残っています。ただ、自民党内に総理直属の一億総活躍推進本部といったような機関が設けられ、ここから官邸が作成した法案や政策の事前審査を開始するなどして、その機能は形骸化されているとされます。
 このように、安倍内閣においては小泉内閣時代とは異なる性質が見られるようですが、しかしその前史として1994年の政治改革から小泉内閣に至るまでのプロセスがあるということを本書で知ることができました。

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