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「無上の刹那」に全てを賭けて -刹那にかける恋はなびレビュー-

※注意!このレビューはその性質上、ネタバレを含みます!致命的なものは
避けますが、ネタバレがダメな方はブラウザバック推奨です。


はじめに

 CRYSTALIA新作の『刹那にかける恋はなび』は本ブランドのカタナシリーズの四作目である。しかし、過去作をやってなくても、本作単体で楽しめる。私も、過去作は触れたことがなかったが、十二分に楽しめた。
 この作品にはメインヒロインが三人おり、ルートが3つある。それぞれ魅力的なヒロインであり、私は皆好き(強いて言うなら小鞠が好き)だが、ここではあえて撫子√に絞って話をしたい。

できる妹、小鞠。すき。

あらすじ

 まず、この作品のあらすじ。

 204X年の日本。近未来スポーツである刃道<じんどう>は国民的なスポーツとして栄華を誇っていた。 中でも最も有名な刃道興行――それが『大奉演<だいほうえん>』。 《朱雀院撫子》はこの大奉演で、現役の学園生でありながらプロ剣士として華々しい成果を上げていた。 一方、主人公の《滝川一馬》は地下競技場で刃道の試合をして日銭を稼ぐ、うらぶれたプロ剣士。 剣の才はありながら武家の社会でつまはじきにされ、これまで日陰を歩き続けてきた。 そんな生まれも境遇も全く違う二人が、ある日、運命の出会いを果たすことになる。 「一馬さん、あなたの剣は本物です。私たちと一緒に大奉演でトップを目指しましょう!」 「……ああ、そうだな。それができたら最高だ」 刃道に魅せられた二人は互いの剣に惹かれ、求め合う。 滝川小鞠、英パルヴィも《チーム白狼》に加わり、やがて大奉演の舞台を大きく動かしていく。 勝てば栄光、負ければ転落。 厳しいプロの世界で己が信念を胸に、剣士たちは譲れぬ戦いに足を踏み出す。 剣士は刹那を生きるもの。逃した《刻》は戻らない。 さらば魂を燃やせ。 ――この刹那<せつな>には、命を捧ぐ価値がある――

公式より引用。

 公式のあらすじを読むと、「『不当』に実力を認められない主人公とエリート街道を歩むヒロイン」の対比が見て取れる。事実、物語開始の直後では一馬(主人公)はヒロイン(朱雀院撫子)より強いと思われる描写が散見される。しかし、本作は主人公の成り上がりストーリーではない。どちらかというと朱雀院撫子が「最強」に成るまでの物語である。

センターヒロイン、撫子

 一馬と撫子が切磋琢磨し大奉演を勝ち上がり、エキシビションマッチにて二人が激突するところが撫子√への分岐となる。(ちなみに、その手前でも別の分岐がある)
 撫子√への分岐は、主人公が全てを賭けて撫子を倒しにかかる選択をすることで発生する。

 作中の剣士は基本的に固有の能力を持っているのだが、一馬の能力は「刻の前借り」であり、わかりやすく言うと自身の寿命を前借りして能力を飛躍的に向上するものである。非常に身体に負担のかかる能力であり、文字通り「命を賭けて」勝負をしている。
 撫子√は本作の事実上のトゥルーであり、一瞬の勝負に全てを賭ける「勝負師」としての刀道の剣士を描いた熱血物語である。

鍵となる「無上の刹那」

 この作品において最も大事な言葉はこの「無上の刹那」だろう。
 この言葉は、どの√でも主人公サイドと敵対する、伊庭神九曜の口から、一種の「美学」のようなものとして語られる。

主人公執着おばさん

 撫子√は、この「無上の刹那」のために全てがあると言っても過言ではない。
 共通√の最後で死力を尽くして戦った撫子と一馬は、「無上の刹那」の瞬間のための勝負の相手に最もふさわしいのは互いであることを確信する。そして、二人は大奉演の舞台での再戦を誓って勝負の世界に身を投じる。
 互いを信じ、二人で「無上の刹那」を求め、方や命を削り、方や勝利へ突き進む。この二人の関係は、単なる恋人を超え、またライバルとも言い難い、唯一無二のものへと昇華されてゆく。ここに本作品最大の魅力がある。

 また伊庭神九曜は剣士としての己に誇りを持ち、この「無上の刹那」を求めているがゆえに主人公サイドと敵対するのだが、この敵対した人物から鍵となる言葉が語られることが非常に興味深い。「剣士」という生き物に備わっている性質として、敵味方の壁を簡単に超えてしまうほどに強力なものであることが伺える。

「二人」で歩む道

 撫子の生まれの家である「朱雀院」は刃道の名家とされており、一族は「独立独行」を掲げている。文字通り「他者に頼らない」という意味だが、撫子は朱雀院家に対して反発する行動をよく取っている。また、この家訓(?)もかなり自由に解釈している。

掛け声にされる家訓。驚くべき軽さ。

 これは単なる反発でなく、撫子なりの行動原理があり、それに従った結果である。
 撫子√終了時点で撫子は誰も敵わない最強の剣士となっているのだが、彼女がこの領域にたどり着くのに「独立独行」では不可能であったのは、一馬との勝負を見れば自明である。

撫子以外のヒロインと推奨クリア順

 ここまで撫子以外のヒロインには全く触れずに来た。では、他のヒロインはどうなのか?
 キャラとしての魅力は十分である。しかし、個別√をストーリー面で見ると、撫子ルートには一歩劣る、といったところが本音だ。キャラゲーとして見た時はとても完成度が高いが、シナリオゲーとして見ると微妙である。
 その点で、シナリオも秀逸な撫子√とバランスが取れていないとも言える。
 従って、推奨クリア順は パルヴィ→小鞠→撫子 となる。

不思議ヒロイン、パルヴィ

おわりに

 実はこういうレビューを書くのは初めてなので、ちゃんと書けるか心配だったが、なんとか形にまとまってホッとしている。
 撫子と一馬の関係は単なる恋人の枠を飛び越えており、非常に尊く美しい。また、二人が刃道にかける想いの丈も胸を熱くさせる。本作は「燃えゲー」として非常に質が良く、アツい展開が好きな方はきっと楽しめるだろう。
 今年発売の新作でいきなりこのクオリティの作品に出会えて本当に良かった。もし気が向いたら、ぜひプレイしてみてほしい。

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