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課題曲秘話 『たからもの』

最初のアレンジはシャンソン風で、編曲の義野裕明先生が腕に寄りをかけて仕上げて下さったおしゃれサウンドだった。

ところが、レコーディングの2日前にクミコさんから、「(作詞・作曲の)山崎ハコさんのオリジナルテイストで歌いたい!」との強い要望で急きょ大変更!

クミコさんならシャンソンテイストがいいだろうと思っていたのだが、「山崎ハコ節」(クミコさんはそう呼んでいた)のギター弾き語り風のデモテープのイメージを大事にしたいとおっしゃって、しっとりしたアレンジに決定。

この大会、この課題曲、そしてこのレコーディングのやり方そのものの事情が飲み込めぬまま参加されていた様子ではあったが、そこはさすがのクミコさん、10年も前からこの曲を歌いこんでいるかのような素晴らしい歌唱。我々がホッとするようないい歌で録り始めた。

だが、当の本人は、「なんか違うのよねぇ・・・」 と、納得いかない様子。

山崎ハコさんのオリジナルテイストのイメージが強すぎて、クミコさんが歌っても自分のものになっていないもどかしさ・・・それをクミコさんは【ハコ菌】に感染してしまったと言った。【ハコ箘】に感染してなかなか抜け出せなくなったらしい。

「感染してもいいんだけど…、でも感染しきって歌うのも嫌なのよ…」 と難しいびみょーな雰囲気。

シンガーソングライターの作った作品を歌手が表現するという真剣勝負の繰り返しに、スタジオ内は緊張と笑いという不思議な空間。何度も何度も細かいフレーズでハコさんと相談…。実は、クミコさんは【ハコ箘】と戦っていたのだ。

5テイク目だっただろうか、クミコさんが歌い終わった後、誰もが話しを切り出すきっかけを伺っていたところ、

「これかなぁハコさん…」

とクミコさんの言葉に、ハコさんがにっこりと笑う。

「難しかったけど、なんだか好きだなこの曲。今度ぜひ、ハコさんのギターで歌いたいなぁ」 と語るクミコさんの笑顔。

やっと【ハコ箘】から抜け出せた瞬間だった。

2016年2月1日 シャングリラスタジオ

たからもの

作詞・作曲:山崎ハコ/編曲:義野裕明/歌唱:クミコ


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