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課題曲秘話 『噫 西郷どん』

2016年2月1日 課題曲全13曲のレコーディングはこの作品で半分を超えることになり、少しずつ手応えを感じていた。だがこの時だけは「彼は大丈夫だろうか?」と、そればかりが気になっていた。

この曲をだれに歌ってもらうか?人選は難航した。ほんの2週間前ようやくえひめ憲一さんに決まった。それを我がことのように喜び、レコーディングへの参加を楽しみにしていた彼のお母様の訃報が届いたのはその直後のことだった。急いで実家の松山に帰ろうと空港に向かう準備をしていた彼を、私は強引に引き止めて呼び出し、key決めや、歌い方の打ち合わせをしたのである。

急場しのぎで作った仮オケをヘッドフォンで聴きながら、スタジオでもなく田勢さんの事務所(千代田区内幸町プレスセンタービル内の田勢康弘事務所)での音合わせだった。泣き明かしたのが明らかな目をしながら、「母のためにもレコーディングはちゃんとやります!」というその時の彼の顔を思い浮かべながら、レコーディングの日を迎えた。

レコーディング当日、元気な顔で彼はやってきた。葬儀などいろいろ大変だったと想像するが、なにか心に決めたかのようないい面持ちであった。

(大丈夫そうだな…) 田勢康弘代表と私のうなずくようなサインでレコーディングは始まった。

編曲の義野裕明先生には、西郷どんに見合うスケール感のある雄大なアレンジをお願いした。期待以上の迫力と少し泣きの入った絶妙な素晴らしいアレンジ。えひめさんはスタジオで歌い込むにつれ彼の大きな目がさらにギョロ目化し、「なんか西郷どんの面構えになってきたね(笑)」と田勢さんが呟いた。一安心したと同時に満足の様子であった。

レコーディングはまだ続く。作曲の山崎ハコさんの一音一音確認するかのような細かい歌い方のアドバイス、それを一つ一つ丁寧に取り入れながらも彼独自のテイストはしっかり主張する、このようなやりとりが何度となく繰り返され歌に輝きが増した。

彼の持ち味であるハリのある高音を活かすために当初のkeyより半音上げた。伸びのある後半のみごとに盛り上がるサビの部分がつややかに光った!いい作品に仕上がった。

記者会見で、えひめさんは「この曲は非常に骨太の作品です。」と言った。だが、彼自身が本当の骨太だった。きっと、彼のお母様がいつも見守って下さっているからであろう。

2016年2月1日 シャングリラスタジオ

噫 西郷どん

作詞:舟海勝/作曲:山崎ハコ/編曲:義野裕明/歌唱:えひめ憲一


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