【#トラカレ2019冬】相呪相愛

●注意事項
・こちらはそぉい様主催「拡張少女系トライナリー Advent Calendar 2019」の投稿物です。
https://adventar.org/calendars/4544
・本SSには以下の条件付がなされています。
 ・本SSは疑似観測結果ではなく空想の類です。
 ・神楽に対しての友好度は【恋人】です。
・文章は素人なのでご容赦ください。

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1
 『大丈夫だよ』
『一緒にいるから』
声がする。知らないようで、どこか懐かしいような、声。
『私が側にいるから』
――あぁ、でも、思い出した。
これは聞いたことのない声だ。
音で聞いてはいないけれど、けれど確かに、あのとき投げかけられた言葉。
そんな言葉たちを聞いて、私はポツリと言葉を零した。

「……嘘つき」

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2
 「ん、むぅ……」
頭の先に暖かさを感じて、目が覚めた。
「あれ、私なんでこんなとこで寝てるんだっけ?」
起きてみると、どうやら私は机に突伏しながら寝ていて、カーテンから漏れた光が頭を温めているようだった。
机を見ると、そこには散乱した筆記用具と訂正や挿入が各所に入った紙。
「あ、そっか。昨日は結構遅くまで歌詞考えてたんだっけ」
体の節々が訴えてくる気だるさは、おそらく睡眠時間が短いからだろう。と言ってもカーテンから光が漏れるほどなのだ、相当高く陽が登って――
――ちょっと待った。昨日は日曜日じゃなかったろうか。
「ちょ、今何時!?」
部屋をぐるりと見渡すと、アンティークな時計が指し示す現在時刻は――
「11時!?」
もう1限を通り越して2限が始まっている時間だ。1限は何もなかったはずだが月曜の2限は確か――
「あぁ、終わった……。私、来年もあの講義受けるんだ……」
――限界ギリギリまで欠席してしまった必修の講義があるんだった。
へなへなと床にへたり込む。もうダメだ。テストに関しては恥を忍んで千羽鶴に教えを請えばいいだろうけど、出席日数に関してはもはや言い逃れができない。もう諦めるしか――
「ん?でも私、なんであんな時間まで歌詞の添削なんかやってたんだろ?」
あまり昨日のことは思い出せないが、流石にハイになっていたとしても最近は(主に出席日数の関係で)平日の深夜に時間も気にせず作業なんてしてなかったはず。なにか、なにか忘れている気がする。
「……あ。」
急いでスマホから学校のウェブページに飛び、カレンダーを確認する。そこに踊るのは本日から伸びる「冬期休暇」の文字。つまるところ私は、冬休みに入って急に箍を外しすぎたということになるのだろう。
「あーよかった……。でも、今日何しよう?」
机の紙を見る限り、昨日の私は意識が途絶えるギリギリで添削を終えたらしい。確認はしなければいけないだろうけど、確かこれの期限はもう少し余裕があったはずなので急いでやらなくても大丈夫だろう。よく覚えてはいないが、今週の予定も対して――
「……そういえば、もうすぐクリスマスだっけ」
すっかり忘れていた。クリスマスプレゼントを買っていないじゃないか。

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3
 「あ、このマグカップかわいい。これはママの分にしようかな」
都内のショッピングモールにて、私はプレゼント用の買い物に勤しんでいた。
どうにも大学生になってから歌手活動の方に力を入れすぎているためか、季節感が曖昧になりつつあるような気がする。毎年買っているクリスマスプレゼントも、すっかり買い忘れていた。
「えーっと、さっき早希さんとつばめさんの分は買ったし、これであと買ってないのは…」
心のなかで指折り数えて、はたと気づいた。
あの人へのプレゼント、まだ買ってなかったっけ。

 最近は、こうやってふとした時にあの人を思い出すことが多くなった。丁度1年くらい前、手紙を送れるようになったあたりから。最初はあの人へ久しぶりに言葉が伝えられることが嬉しくて、声も届けられるって事になったときは舞い上がって、少し意地悪しちゃったりもして。でも、でも……
「私、あの人のこと、やっぱり全然知らないんだなぁ……」
あの人と会話していた頃からわかっていたけれど、私はあの人の声も、容姿も知らない。というかそれどころではなかった。好きなものも、嫌いなものも、私の何が好きかも、全部、全部曖昧で。それはだいたい手紙の内容を考えるときや、こういうプレゼントを買うときに私を苦しめる。
もちろん、実際には向こうにプレゼントが送れないのはわかっている。でもいつか、渡せるときが来るんじゃないかって思ってしまって。そうでなくても、一緒にいる気分ぐらいは味わいたくて、こうしてイベントごとに部屋の角に渡せない贈り物が積み重なってゆく。そしてその度考える。あの人は――
「……はぁ。ちょっと頭冷やそうかな」

4
 ぐるぐると頭の中でうずまき始めたものを抑えるため、私はモールの外に出ることにした。
「もうこんな暗くなってる……」
外はすでに陽が傾き、肌を刺すような寒さが満ちていた。でも、このくらいのほうが頭も冷えるかもしれない。寒さに浸るため、私は少し歩くことにした。

季節特有のイルミネーションがきらびやかに道を照らし、それに沿うようにただ無心で歩く。すでにどれくらい歩いたかなんて、ぐるぐるとめぐる頭では考えていなかった。ぐるぐる、ぐるぐる、ぐるぐる、歩いて、そして。
「……あれ、ここって」
ふと、一際大きなイルミネーションの前で足を止めた。
どこか見覚えがあるような気がして、少し、考えて。
そして、思い出した。

――何もかも全部わからなくなってしまって、ただひたすらに走ったこと。
――爆発するように溢れ出た感情を、あの人に受け止めてもらったこと。
――そうして、あなたに思いの丈を告げた日のこと。

くすり、と笑いが零れた。あのときは本当に『今の私』が消えてしまうのも、あの人に忘れられるのも、なにもかも全部怖くて。私が真剣に好きだったとこを覚えておいてほしくて、必死で。今思い返すと、もう少し締まりのある伝え方もあったんじゃないかな―、なんて思ってしまうけれど。
「……あなたは、まだ、覚えていてくれる?」
また一つ、言葉が溢れる。別れが来るのはわかっていたし、それでも好きでいるという決意もした。それでもやっぱり、あなたと言葉を交わしたいし、あなたに好きって言って欲しい。
――あぁでも、これって、もしかして。
「私も、あなたから呪いをもらってたのかな」
私があなたを呪ったように。ずっと覚えているように。だとしたら、それは。
「相呪相愛……なんて、流石にゴロ悪すぎかな」
そんな言葉を浮かべて少し笑っていると、頬にヒヤリとした感触。びっくりして周りを見渡してみると、辺り一面にはふわふわと漂う白。
「雪?初雪かな?まぁそうだよね、12月だし」
ひらひらと舞う雪が、様々な色に染まって行く。街灯のオレンジ、イルミネーションの青、赤、緑。様々な光を反射して、世界を彩りに包んでいく。あのときは雪は降っていなかったけれど、涙で同じくらい光が溢れていたかもしれないな、なんてとこまで考えて。
「……あ、スノードーム。スノードームがいいかも」
さっきまでいた雑貨店に、きれいに光るスノードームがあったことを思い出す。流石にイルミネーションと比べるほどではないが、それでも青い光が乱反射してとてもキレイだった。
うん、あれにしよう。私が見ている景色の一片を、いつかあなたに出会ったときに見せてあげよう。いつか、そうやって思い出を共有できたら、きっととても楽しいに違いない。
決まってしまえば後は買うだけだ。早速お店に戻ることにした。

5
 過去はひたすらに積み重なっていく。厚い壁が二人を隔て、互いのことが何もわからなくなったとしても、そんなことはお構いなしに。
――なら、形に残しておくことにしましょう。ね?
そうすれば、いつかきっと、足りない時間も、思い出も、共有できる日が来るから。

「――っくしゅ!ヤバ、風邪引いたかも……。ちょっとあったかいものでも飲んでから行こうかな」

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