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「コミックサーカス」の第6回は開催されたのか?

この記事は、1980年代に北九州で開催されていた「コミックサーカス」という同人誌即売会が何回までやっていたのかを調査した結果をまとめています。
というのも1983年の第5回までで終わったと思っていたところに、1984年に第6回が開催されたという情報がほぼオフィシャルな形で出てきたんですよ。
ただ、どうにも本当か怪しい、というか間違いなんじゃないかと思うんですよね…。

「コミックサーカス」は九州で初めて開催された同人誌即売会「北九州合同まんが展」の流れにある即売会史的にも重要なイベントなんです。
そういうところもあり曖昧な感じにしたままなのは良くなさそうなので、検証することにしました。

第6回開催情報の出所

「アズ漫画研究会」という2024年現在、現存する最古の漫画研究会がありまして、そのグループが2021年に「55周年展」を開催したんですね。
その中で黎明期の北九州の同人誌即売会の歴史を関係者が語るトークイベントがあり、それにあわせた作られたと思われる年表の中に「コミックサーカス」の第6回情報があったんです。

『アズ漫画研究会 55周年展 報告書』P115より

引用した『アズ漫画研究会 55周年展 報告書』には、トークイベントの誌上再録もされていて、非常に資料価値が高い本になっています。研究者にオススメ。

『アズ漫画研究会 55周年展 報告書』

私も当該のトークイベント自体は見れてなかったんですけど、この本のおかげで内容を知ることが出来ました。

主催者も記憶にない

当該トークイベントには「コミックサーカス」を主催していた、安芸さとみさんも参加されていたんですけど、安芸さんご自身も第6回の記憶がないと発言しています。

『アズ漫画研究会 55周年展 報告書』P86より

ということもあって「間違いなんじゃないか」という確信を強めたわけです。

正しいと思われる時系列

以下のような時系列が正確ではないかと思います。

  • 1979年3月 北九州合同まんが展(北九州コミックマーケット)@小倉東映会館

  • 1980年3月 第2回北九州合同まんが展(第2回 北九州コミックマーケット)(コミックサーカス2) @山城屋デパート6F

  • 1981年8月 コミックサーカス3(北九コミケ3)@紫水会館

  • 1982年8月 コミックサーカス4(北九コミケ4)@西日本総合展示場

  • 1983年7月 コミックサーカス5(北九コミケ5)@西日本総合展示場

「北九州合同まんが展」「北九州コミックマーケット」「コミックサーカス」といった名称がごちゃっとしていることから、年表を作る上で混乱したんじゃないかな?と推察してます。
以下の告知なんかを見ても名称が安定していないことが分かると思います。

『ふゅーじょんぷろだくと』1981年7月号の告知より

安芸さんは1980年3月の「第2回北九州合同まんが展」からの主催。1979年3月の初回の主催者からの「これ以上はやらない」という話を受けて引き継ぐことを決めたようです。
こうしたところから初回は「北九州合同まんが展」の名称を使いつつ、以降は独自色を出していった感じなのではないかなと。

コミックユニオンの告知

1983年に終わったと私が思っている「コミックサーカス」を引き継いだのは「コミックユニオン」というイベントで、こちらの代表の遠藤さんも当該トークイベントに登壇されています。
コミックユニオンの初回は1985年1月に開催されています。

『COMIC BOXジュニア』1985年2月号より

上記は当時の雑誌の開催告知なんですけど、「北九コミケ6」と銘打たれてることに注目。
これまでのナンバリングを引き継いでいると考えられますから、ここから見ても「コミックサーカス6」があったとは考えにくいと思います。

ちなみに1984年1月には「コミックユニオン」系列のスタッフが開催した「ダンシング オブ コミック」第1回が小倉の真鶴会館で開催されています。このあたりをプレイベントにして、1985年1月に正式な後継イベントである「コミックユニオン」開催に臨んだんじゃないでしょうか。

検証は以上です!
あとは余談。

「コミックサーカス」の名称について

当時は「コミックマーケット」の名称は商標登録されていませんでしたので、本家と関係ない「◯◯コミケ」みたいな名前のイベントが乱立していました。
「同人誌即売会」という名称も一般的ではなかったため、「コミックマーケットのようなイベント」と説明するのに便利だったんだと思います。
「北九州コミケ」の名称を改めるように勧めたのは、おそらく漫画情報誌『ぱふ』の編集長だった村石憲一さんで、1980年3月の「北九州コミケ」に参加して「北九州コミケットだより」という記事を『ぱふ』に書いています。
村石さんは九州出身のため、出身エリアで開催される同人誌即売会の存在を初めて知り、強い興味を持ったんでしょうね。

『ぱふ』1980年6月号より

注目すべきは最後の段落で「東京のコミケ、名古屋のコミカ、大阪のコミールといったように、九州にも新しいネーミングがあった方がいい」という部分。
当然、安芸さんもこの記事を読んだでしょうから、それを受けて「コミックサーカス」という名称を考えた可能性が高いです。

ちなみに「コミックサーカス」という名称の同人誌即売会は他にもあり、1993年に東京で3回、2014年に静岡で1回行われていますがそれぞれ別イベント。
この例に限らず、昔どんな名前の同人誌即売会がやっていたかなんて調べるのが難しいため「コミック◯◯◯」系のイベント名は被りがちです。

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