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ちょっと、そこの貴方。

私の肉球を見て御覧なさい。
どう?この、惚れ惚れとするほど
愛らしく美しい、
ピンクの薔薇色の肉球は。

筆舌に尽くしがたいほど、
素晴らしいでしょう。
本当に良いものを見たわね、貴方。
今世紀最大の幸運に遭遇してしまったわね。

さてと。
じゃあ、ここで貴方のお気持ちを
頂こうかしら。そうねえ。
何にしようか、いきなり言われても
貴方お困りじゃない?ええ、
分かっているわ。任せて。

じゃあどうかしら、先日は土用の丑の日
だったでしょう。そうよ、鰻。
ウナギよ。ああ、出来れば国産が良いわ。
香りが違うのよ。まあ、勿論味もなのだけれど。

ああ、私、山椒は結構よ。
人間はあれを鰻にかけるのが、
随分とお好きなようだけれど。
私にはちょっと、刺激が強いの。
ピリっとし過ぎよね。鰻本来の
味が分からなくなってしまうわ。

え?鰻、自分が食べたいって?
もう。仕方ないわねえ。
じゃあ鮪。マグロのお刺し身が良いわ。
私は赤身が好きなのよ。

え?何で語尾がニャ、
じゃないのか、ですって?
馬鹿にしないでくださる。
私を、そんじょそこらの
猫ちゃん達と一緒にしないで。

もう一度御覧なさい、この輝く肉球を。
そうよ。私は選ばれし、ほんの一握りの
高貴な肉球の持ち主の猫様なの。
そう。ちゃん、ではなく、
さま、よ。

だから、この名に恥じないものを
食さなければいけないのよ。
お分かりかしら。ふう。
それで、貴方は。
私に何をくださるの?

え?こんな可愛げのない猫なんて、
猫じゃないですって?
まあ。なんて失礼なことをおっしゃるの、
貴方は。

いいかしら。
猫は、人に、というより
誰に対しても媚びないところが
美しく、素適なのよ。
孤高の存在なの。お分かり?

え、じゃあ鰻や鮪をねだるなって?
それは媚びているのと
何も変わらないだろうって?
……………。

ふう。
貴方にこれ以上何をお話しても
無駄みたいね。私の肉球が
桃色の涙をこぼしているわ。

まぁ、こういう日もあるでしょう。
私は寛大な猫様なのよ。
じゃあ、ご機嫌よう貴方。
またの機会にお願いするわね。

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どうもありがとうございます!




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