利益を生み出す、いまは出来ないビジネスモデル。ソフトとコピーツールとブランクディスクと。

映画や音楽、絵などの創作物に著作権があるのは普通のことですが、当時パソコンのプログラム(ソフト)に対する著作権は法律的にはあいまいな状態でした。
そのためパソコンショップの商品カテゴリには「ハード」「ソフト」「消耗品」などのほかに「コピーツール」というものがありました。
その名の通りソフトウェアのコピーができてしまうものでした。しかもハッカーのような深い知識がなくても簡単にコピーができました。
定価よりかなり安くソフトを入手できるため、多くのパソコンユーザーが飛びつく市場になり、コピーツールの中で競合もありました。
「ベビーメーカー」や「WIZZARD」「アインシュタイン」などが主流でしたが、細かいのも含めて10種以上はあったと思います。
また後述しますがパソコンショップは正規のゲームソフトを販売するよりも大幅に儲かる仕組みでもあり、ユーザーとショップ、そしてコピーツール開発会社がwin-win-winとなる今で言うと「エコシステム」なるものが確立していました。
ただゲームソフトを制作しているソフトウェアメーカーからしたら、たまりません。
かと言って、法律に頼れない当時としては、プロテクトというコピー防止のプログラムをゲームソフトに含んで販売するようになります。
プロテクト自体はいまのソフトにも入っていますが、当時はこのプロテクトを無効化する「パラメーター」というソフトが正規ソフト発売後すぐに出るため、プロテクトの意味はほぼないに等しい状態でした。
パソコンショップには、正規ソフト、そしてコピーツール、パラメーター、コピー先になる空の空のフロッピーディスク(ブランクディスク)と、コピーに必要なものが全て揃っていて、ユーザーはこぞってこれらのセットを買っていくのでした。
その後ソフトをコピーし終わったユーザーは、正規のソフトをパソコンショップに買取に持ってきてくれます。
パソコンショップはそのソフトを買い取ったあと、中古ソフトとして再販売します。
そうすると別のユーザーが中古ソフトと一緒に、またコピーに必要なツールを買ってくれます。そしてまたソフトだけ買い取りに持ってくる。それをまた別のユーザーがセットで買っていくというサイクルがずっと続きます。
ちなみに利益率の観点でも新品ソフトを販売するより、中古ソフトのほうが儲かりますし、コピー先になるブランクディスクはさらに儲かります。
私はそんなお店にいて、正規ソフトは毎週のように発売されるので、このサイクルが永遠に続くように思えました。
コピーについてはまた別の機会に書きますが、コピーという行為はある種の快感を覚えるものだったのだと思います。そういったユーザーが多くいらっしゃったので、お店は常に満員でレジには列が途切れませんでした。
その後ある日、コピーツールはやめることになると店長が言いました。どうやら法律的にダメで、前からソフト会社からも何か言われてたみたい。と言ったとても曖昧な話しを閉店後の世間話の中で聞かされました。いま思えばとても意識の低いことです。時代のせいにしてはいけないかも知れませんが、当時の私はそんな環境におかれていました。
世の中は高度成長期が終わり、不景気感が漂っていたと思いますが、当時の私はまだ子供で詳しくわからない事でもあり、景気の良い特別な場所を楽しんでいました。
あの頃を正当化するつもりはありませんが、その時に一緒に働いていたメンバーとも、四半世紀が経った今でも付き合いがあります。
あの時全員が楽しんで仕事をして、そのときにできた特別な絆みたいなものがあり、学生時代のアルバイトとしては珍しい人間関係でもあります。
こんな経験をさせてもらえる場所を作ってくれた先輩方には感謝しています。

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