HELL ON THE GRILL
誰しもハメを外した飲み会というのはあるだろう。
つい飲み過ぎてしまった、何かの祝い事があった、その理由は様々だ。
しかし、僕自身はその経験がほとんどない。お酒を全く飲まないためである。
僕はほろよい一缶で泥のように酔ってしまうレベルで飲めないのだ。もし僕が女性だったらスケべ男どもに毎週持ち帰られ祭りだった危険性があるので、本当に男性で良かったと思う。
自分の酒の飲めなさについては以前にnoteにも書いたので、是非そちらを参照されたし。
しかし僕が酒を飲まないだけで、周りがめちゃくちゃに酒を飲むということは当然起こる。今日は僕が今まで経験した中で最悪の飲み会の話を書く。
それは僕が大学2年生の年の初夏のことだった。僕はサークルの行事である新歓BBQに行くため、電車に乗っていた。
その時の僕は、BBQをとても楽しみにしていた。何しろ、例年では二子玉川かどっかで数時間肉を焼くだけで終わっていたBBQが、今年は海の方へと遠出をし、なおかつ1泊するというスケジュールだったのだ。
前回、1年生の時に行ったBBQは知らない先輩も多く、同期の友達も少なかったため、正直心から楽しむことはできなかった。
しかし、1年間サークル活動をして友達も増えた、今年20歳になったので大手を振るって大はしゃぎできる、加えてBBQをしながらの合宿ということでとてつもなく期待値が高かったのだ。僕の同期も皆そうだったと思う。
昼に宿舎に着き、夕方にかけて僕らは海辺でBBQをした。肉を焼き、くだらない話をしながら酒を飲む。やんちゃな奴らは海へ飛び込んで大いに楽しんでいる。僕は、夏を楽しむ友人の顔や、夕方の空と海、空気、その全てを一生忘れたくないと思った。
BBQが一旦終わり、宿舎の宴会場で改めて飲み会が開始された。再度の乾杯を終えた直後、僕は仲が良かった同期の女の子に人気の無いところに呼び出された。当時の僕は、いつもその子の恋愛相談に乗っていたのだ。
もちろん僕は大して恋愛経験などないのだが、いつも訳知り顔で恋愛相談に乗っていた。
僕の恋愛相談はタイミングよく相槌を打ちながら話を聞くだけのものであり、一通り話を聞き終わっては「まあ、結局お前がしたいようにすればいいんじゃん?」と言って終わらせるのが毎回だった。
こんなアドバイスなどもちろんクソの役にも立たないのだが、恋愛相談を受けてる時ってなんか自分の中の小栗旬みたいな部分が顔を出してきて、ついついカッコつけたことを言ってしまうのだ。これは誰だってそうだろう。心にリトル小栗がいるはずだ。
その女の子は数ヶ月後無事に恋愛を成就させるのであるが、それは決して僕の恋愛相談のおかげなどではない。普通にその子の実力である。
いつもの決めゼリフを放ち恋愛相談を終えた僕らは宿舎の宴会場に戻った。すると、そこでは先程の青春BBQが嘘のような地獄の飲み会が繰り広げられていた。たった20分程席を外しただけで、どこもかしこも海賊のように酒を飲んでは騒いでいた。一体何が起きたのだろうか。
恐らく、僕以外のみんなも泊まりのBBQということでテンションが上がってしまったのだろう。テンションが上がれば酒も進み、そうなれば更に楽しくなり一層酒を飲む。大学生とはおしなべてそういう風に出来ているらしいのだ。
あるところでは「後輩の女の子に振られた」と半裸で叫びながら泣いている男がいた。そして、ある先輩がその男をなだめつつも、早く黙らせたかったのであろう、焼酎にウィスキーやらテキーラやらを混ぜたものを飲ませていた。強烈に凝縮されたワンカップちゃんぽんである。それはもはや酒ではなく毒だ。
またあるところでは、ちゃぶ台にウィスキーをわざと溢して、それを一気に吸い上げるという事を集団で行っていた。彼らは「普通に飲むより、吸う方がアルコールキマる!!」と大喜びであったが、その姿はどう見てもアッパー系ドラッグをかち込んでいるバッドボーイズの集いであった。
宴会場を見渡した僕の頭に「乱痴気」の3文字が浮かんできた。もう読んで字の如く、あまりにも乱痴気すぎるのである。辞書に載っている乱痴気の例としてその宴会場の写真を提供したいくらいだった。
先程海辺のBBQで見せたポカリスウェットのCMのような輝く笑顔はどこにもない。ここは、略奪の限りを尽くして宝に浮かれた海賊船の中である。皆一様に酒と狂乱に飢えている。僕が一生忘れずに皆と共有していきたいと感じた夏のBBQの思い出が、海賊達のmadnessの中に巻き込まれて消えていくのを感じた。
それからというものの、僕は朝まで延々と酒に溺れた海賊達の介抱をするハメになった。見知った奴らがバタバタと倒れていく。それはまるでパニック映画のような図であった。僕は全く酒を飲まないため介抱役に徹するしかないのである。
どれだけ働いても次から次へと倒れた人間が運び込まれてくる。終わりが見えない状況であったが、僕が持ち堪えなければ彼らは命を落としてしまう。あの夜の僕は、平成のナイチンゲールと呼ばれていても差し支えない、そう自負する献身的な介抱をした。
誰かの介抱をしているときに酒に浮かれた別の海賊が邪魔しにくることもあった。数時間後、案の定その海賊が気絶して運び込まれてくるのだが、さすがナイチンゲール。僕は一切の差別をせずその男も助けた。
自分の懐の深さに涙が出てくる。しかし、誰も彼もが酒に酔って記憶が飛んでいるため、僕のこの白衣の天使っぷりを覚えている者は勿論いなかった。
そして迎えた朝は壮絶なものだった。酔い潰れた者や、介抱疲れの者、誰もがかろうじて生きているような顔をしていた。トイレで全裸で事切れている奴もいれば、寝ながら嘔吐し、自分の胃液で顔を半分溶かしている奴までいた。ジグソウ主催の飲み会かよ。
これ一応、新入生歓迎BBQ合宿の朝なのである。どう見ても新入生を歓迎する気など一切ない。
その後に撮った集合写真は新歓BBQとは思えないほどにどんよりとした雰囲気で、ほとんどの人間が死んだ魚のような目をして写真に写っている。
僕は帰りの電車に揺られながら、自分がこの年の新入生だったら間違いなく入部しなかったであろう、となんとなく思った。人生の巡り合わせとは不思議なものだと、未だ酒から回復せずにうなだれたままの友人のうなじを見ながら感じたものである。
以上が僕が経験した中で最高に荒れた飲み会の記憶だ。周りも大人になってきたため、これほどクソな飲み会が今後繰り広げられる事は流石にないであろう。そういった希望的観測の下に、上記の飲み会を人生最高の、いや人生最低の飲み会として一生覚えておくこととする。
終わります。
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