母とロウリュ


非常に困ったことになった。

急に10日間家に引き篭もらなくてはならなくなった。わざわざ声高に言わないだけで、このご時世それなりの人は体験してるんじゃないか。例のアレである。

正直驚いた。手は人殺しのように毎日洗いまくってたし、うがいもLIVE前の稲葉浩志かと言うほど入念にやってたし、どんな忙しい日でも毎朝の青汁は欠かさなかった。周りと比べて「自分は結構ちゃんと対策してるなあ」という自負があった。

しかしそんなもんがどうしたという形で、ある日の昼前に喉に違和感を感じ、そこから1時間後にはどう考えてもおかしいと分かるほどに体調が悪化してしまったのだ。夏期講習期間に入り、この後も3コマくらい授業が控えていた塾を早退させてもらい、帰路に着いた。


その日は夏の東京らしく高温多湿の地獄のような気候であり、僕はフラフラしながら家までのおよそ10分間を千鳥足で歩いた。もうどっからどう見ても病人である。この状態でワンピースのルフィと出会い、仲良くなっていたなら「フラフラのおっさん」と呼ばれること請け合いだっただろう。

そしてどうにか近所のスーパーに行き、幾つかのゼリーとスポーツドリンク、そしてコーラを買った。なぜコーラを買ったかというと、コーラはエネルギーの効率が極めて高いらしく、レース直前に愛飲するマラソンランナーもいるくらいだからである。しかし、スーパーのおばちゃんにはその知識は無かったらしく、「たいしたものだ」と褒めてくれることもなく黙々とレジ処理をしていた。オイオイオイ、死ぬわアイツ。


ビニール袋に商品を詰め込みスーパーを出ると、その余りの重さに早速後悔をした。なんで俺はコーラなんて買ったんだろう。重てえ。


そうして家に入ると体力の限界を感じてそのまま部屋に倒れ込んだ。そして大きく息を切らしながら服を脱ぎ、這うようにしてベッドへと向かった。その姿はさながら瀕死のルパンである。しかし、ベッドにいい女はいない。

不二子ちゃんの代わりに体温計を胸に抱え込むと、39.7度という今まで見たことのない数字を叩き出した。もう人間というより熊谷である。
あまりの数字に驚きつつも、僕は部屋をガンガンに冷やし、とにかく解熱に努めた。そして2日前に10分ほど話をしてしまった母に連絡をいれ、気絶するように眠った。


数時間後、僕は目を覚ました。ロウリュくらい汗をかいているものの、何も整っていない。熱を測るも、依然39度を超えている。嘘だろ。とりあえず水を飲む。とても美味しかった。

やはり我慢こそ最大の調味料だなあと、瀕死ながらも妙な納得感を感じていると股間の辺りに違和感を感じた。なんと、キン○マがべらぼうに熱くなっているのだ。恐ろしいことに少し目を離した内に僕のキン○マがでんじろう先生が熱した鉄球みたいになっていた。やばい!キン○タマが死んでしまう!
こんなことなら替えを買っておけば良かった。しかし○キンタマ○の替えなど中々売っていない。割と毎日Amazonのアプリを開いてみるがレコメンドされたことなど一度もないのだ。おいたわしや。


僕は唯一着ていた衣服、つまりその時に残されていた唯一の文明であるパンツを脱ぐことにした。人間からただの猿に退化することは抵抗があるが、キ○ン○タ○マのためなら仕方ない。しかし、その時汗を大量にかいていたために引っかかって上手く脱げない。高熱が出てる時はこの程度の運動も一苦労なのだ。

そんな折、僕からの高熱連絡を受け取った母親が家に入ってくる音がした。「まずい、裸を見られる」と思ったが、そこでサッとパンツを履き直せるものならそもそも〇〇○○(4個もタマは無いけど笑)にピンチなど訪れない。


僕がゼェゼェ言いながら必死でパンツを脱ごうと頑張っている時、母は僕の寝室のドアを開けた。


思えば昔から母には苦労をかけた。子供の頃はヤンチャ坊主でデパートに行けば迷子になり、幼稚園に行けば他人に怪我をさせ、ノロウィルスも2年連続でかかった。

どうにかこうにか大学まで行かせたのに突如芸人になると言い出し、全てを投げ出す始末。一体いつになったらこの人間はちゃんと生きていけるのだろうか、と思ったことだろう。しかし、ここ数年大学に再度通い、教員免許取得のために勉強をしている息子の姿を見て、少しは安心していただろう。やっとこの男は一人前の人間となれる。しかしその矢先にゼェゼェ全裸である。母のショックは計り知れない。


しかし、母は「おっ」とだけ声を漏らし、僕に対し必要なものを幾つか聞くとすぐに家を出ていった。母は強しである。流石に泣きながらうんこ漏らしてる時から育ててきただけある。お母さん、ありがとう。うんと楽させてあげるからね。


やっとの思いでパンツを脱ぎ去った僕はとにかくキンタマを冷やし、そのまま眠った。それから数時間後、再度母が来て僕に検査キットを投げつけてきた。依然全裸の僕には目もくれず、そのまま何故だか「散らかして〜」と言いながら部屋の片付けを始めた。

母は強しと言ったが、それにしても母過ぎないか?部屋なんてどうでもいいだろう。元気になったらやるよ。それより早く出ていきなさい。うつったらどうするんだ。


僕は母に「もっと俺をバイ菌扱いしてくれ」とレベル100のドMが言うような妙な五反田日本語を浴びせかけ、家から追い出した。そして追い出した後に少しだけ胸が痛んだ。


その後、母からもらった検査キット(鼻に棒入れるやつ)を武士の切腹のような思いで鼻に突き刺し検査をすると、思った通り陽性であった。ポンポーン!


かくして僕の隔離生活が始まった。今は体温が37〜38度を行き来している程度まで落ち着いたので、とにかく暇で仕方ない。もしかしたらまたこんな風に久しぶりにnoteを書いてみるかもしれない。その時は是非読んでもらいと思います。みんな体調気をつけて。


終わります。

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