ジャニーズの嗜好から見る母の変化


さて、この間書いたようにうちの家族は全員ジャニーズが大好きである。その中でも母は、熱中度が群を抜いている。

そのジャニーズファン歴は長く、母がまだ少女であった頃から郷ひろみの大ファンだったそうだ。その後、花より男子を入り口に嵐のファンになった。嵐ファンとしては非常にありきたりな形であるといえよう、母は嵐ファンとして15年を過ごした。

しかし、ご存知のように嵐は2020年にその活動を休止した。僕は嵐の活動休止を知り、真っ先に母への影響を懸念した。何故なら母はその人生の娯楽の全てを嵐から得ていたからだ。

嵐は本当にすごいグループで、冠番組を週に何度も放送していたし、どのクールにも1人はドラマに出ていた。メンバーがドラマに出れば番宣で他の番組に出るし、主題歌として新曲だって出る。新曲が出ればアルバムが発売され、あれよあれよという間に全国ツアーが行われる。そうこうしていると、メンバーの出る新しいドラマが開始され…といった具合に「嵐Happinessスパイラル」が構築されていた。ファンはただ日々を生きているだけで常に大きな娯楽を得られる。そして2020年、その一切が絶たれたのだ。そのショックは計り知れない。


しかし、僕の心配に反して母が大きく落ち込むことはなかった。というか、いつの間にか新たにSnow Manのファンとなっていた。その鞍替えはあまりにも滑らかであり、なんならまだ嵐が活動している時既にSnow Manに夢中になっていたのだ。女心と秋の空とは本当によく言ったものだと、先人を称賛するより他はない。


僕はSnow Manファンとなった母に一つの質問をした。

「メンバーで誰が一番好きなの?」

Snow Manは9人組グループなのであるが、非常に個性豊かである。マッチョからアニオタ、国王様から気象予報士までいる。母は答えた。


「向井康二くん!」


!?

データと違う。

先述したが、母は昔郷ひろみの大ファンであった。そして花男からハマっただけあり、嵐では松潤が一番好きだった。そこから弾き出される母のアイドルの嗜好は、「分かりやすくカッコいい」である。

一方、向井康二の個性を一言で言うなら「明るい関西人」である。批判を恐れずに言うのなら、彼は「顔のかわいいダイアン津田」みたいなタレントなのだ。今までの母ならどう考えてもめめ(目黒蓮)を推すはずである。僕は母が嘘をついているのではないかと疑ったが、バラエティに出ているSnow Manを見る母の態度は、言葉以上に雄弁に彼女の心境を物語った。

他のメンバーと比べて、明らかに向井康二の発言で笑いすぎなのである。トークの小オチみたいなところで膝をバンバン叩いて笑う。お笑いライブにこういう客が来ると、他の客が気になって逆にウケなくなるという現象が起きるくらい笑っていた。

また、母は向井康二のトークにテンションが上がり過ぎて、同じ番組にレギュラーで出ているフワちゃんのトークなどでも、勢い余って爆笑している始末であった。母は50歳を過ぎて、人生2度目の「箸が転んでもおかしい年頃」に突入したようだ。人間の心境をここまで変化させてしまうジャニーズとは、この日本で享受できる数少ない合法的なドラッグと言ってよい。


全ての物事には大なり小なり理由がある。僕は、母の嗜好が変わった原因を突き止めるべく、Snow Manを楽しむ母をしばらく観察することにした。そして、ある日その全てが明らかとなった。


それは、向井くんが番組で自分の母の話をしていた時である。向井くんの母は、「元軍人のタイ人」というヒキの強い経歴からバラエティ番組でしばしば取り上げられる。向井くんが自分の母のおっちょこエピソードを話して一通り笑いを取った後、「まあ、こんなオカンが好きなんすけどねぇ」と言ってトークを終えた。すると、母が

「こんな息子、羨ましいなあ。」

と呟いた。その時全てがわかった。母は「理想の息子像」を向井康二に見ていたのだ。

郷ひろみに憧れていた頃の母は、まさしく夢見る少女であった。そのため、「理想の恋人像」をその姿に見ていた。松潤にハマった時も恐らく同じであろう。松潤は母から見たら歳下ではあるが、ギリで「理想の恋人像」をその姿に認めることが出来たはずだ。

しかし、Snow Manは母からしてみると更に若い。というより、まんま僕と同世代のグループである。そのため、母がジャニーズに見出す像が変化し、いつしか「理想の息子像」を見出すようになったのだ。考えてみると、Snow Manを見る母は「かわいい」を連呼している。明らかに嵐の頃と違う。アイドルに「かっこいい」より「かわいい」を求めている。

Snow Manの中に「理想の息子像」を見出すとなると、向井康二は正にドンピシャであろう。彼は常に明るくてバラエティも頑張るし、先述の通りマザコン気質なところがある。母がハマってしまうのは必然であると言える。テレビで活躍する向井康二は、息子が運動会や学芸会で必死に頑張っているようなものなのである。


しかし、こうなると困るのは僕である。何しろ28年間独占していた息子という席を、知らない青年にあっという間に奪い取られていたためである。母は向井康二を直接目にした事はない。僕は息子というポジションをあろうことかリモートで奪い取られていたわけだ。流行りの「リモート○○」もここまで来ているとは思わなかった。
親子の絆とは、この世の絆の中で最も強いものであると思っていたが、それは勘違いであったようだ。

しかし、この立場の男が出来ることは多くないということを僕は知っている。プロポーズ大作戦の藤木直人だってそうだった。ただ、自分から去っていく人間を力無く傍観することしかできない。見ようによっちゃ、あのドラマ結構ひどいところあるなあと、この立場になって初めて分かった。



母は今日も心の息子、向井康二のトークで爆笑をしている。マジでこれを書いている今現在もそうだ。しかし、僕はそれでいい。僕はこの争いから降りることにする。母が喜ぶのであれば、それは僕によるものでなくても構わないのだ。この世は強いものが生き、弱いものは死ぬ。淘汰の先にある未来へと世界は進んでいく。

そのため、せめてSnow Manよ、母のために末永く活躍しておくれ、と祈りを捧げるようにこの文章を終えます。

終わります⛄️🧡

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