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「契約」と「やりたいこと」の乖離ーインハウスロイヤーはまず疑うところから始めよう

1.「やりたいこと」と「契約」の乖離
事業部から「●契約を作ってください」と言われて話をよく聞いてみると、事業部のやりたいことの実現にとって必要なのは●契約ではなくもっと別の類型の契約だったということはないだろうか。

契約とやりたいことの乖離ー偽装請負などはこの典型だろう。実態は労働者を派遣してもらい自社で働いてもらいたいのに、形式上は請負契約を締結する。結果、労働者派遣法違反として行政処分の対象となるリスクを負うことになる。契約とやりたいことの乖離は、単純に契約上の問題だけではなく、時に行政処分・刑事責任リスクを伴うから厄介だ。

2.「やりたいこと」と「契約」の乖離の原因ー事業部
このような「やりたいこと」と「契約」の乖離の原因は、まず第一に事業部にある。その内容は実に様々だが、ざっくり分類すれば、①事実関係の誤認、②契約についての誤解、③社内手続の回避、④脱税その他の違法行為、といったところに集約されるのではないだろうか。①や②は比較的よくあることだろう。上長に指示されて法務部に勢いよく電話して「NDAください!」などと言ってみたものの、NDAとは実は何なのか、今から何をするのか、実はよく分かっていない事業部の若手、などというのも存在しうる(マジで勘弁してくれ。。。←心の叫び)。③は、ある類型の契約に落とせば社内規程上稟議など社内手続が不要になる場合に、実態はそれと異なるやりたいことを、無理矢理当該契約類型にねじ込むようなことである。④は説明するまでもないだろうが、もちろん論外だ。

3.「やりたいこと」と「契約」の乖離ー軌道修正できるのは法務部だ
しかしこの「やりたいこと」と「契約」の乖離をそのまま放置して、「やりたいこと」とマッチしない契約を作ってしまうのか、それとも、正しい枠組みに「やりたいこと」を適切に落とし込んでから契約を作ることができるかは、インハウスロイヤーの働きにかかっている。必要なのは、(1)「本当にこの契約でいいのか」疑ってみること、そして、(2)「要は何がやりたいのか」を理解することである。
(1)は特に、法律事務所からインハウスに転職してきて間もない若手は苦戦するところかもしれない。法律事務所ではそもそも、若手が扱う領域が限られていることも多く、場合によっては過去の同種の契約をひたすら修正して契約をドラフトする類の仕事がメインであることも多いかもしれない。その場合、クラアントから持ち込まれる取引は大抵過去の同種取引の焼き直しであることも多く、契約類型自体を疑ってかかるという工程は通常発生しないことも多いだろう。
(2)もなかなか難しいところで、契約や法律の業務は言葉に依存するものであるところ、事業部の言葉が事実誤認や表現力の問題で常に正確に実態を反映しているかは難しいところであるし、さらに、上記、③社内手続の回避、④脱税その他の違法行為が企図されている場合は特に、不自然・技巧的な事実関係の整理が行われていることもある。このような中で罠に陥らないためには、事業部の説明の詳細やテクニカルな部分は一旦さておき、行われようとする取引全体を俯瞰的に見て、「要はこれは一体なのか」を認定する力が求められている。事業部の説明に納得がいかない点があれば、資料の提出を求めたり、上司を巻き込むなどして、十分な事案の把握・検討を行うことが必要となる。何がしたいのかを正しく把握できれば、それに合った契約が何かは自ずと見えてくるはずだ。

4.「やりたいこと」と「契約」の乖離ー別のリスクが見えてきたら
上記3.のプロセスにより、「やりたいこと」と「契約」をマッチさせたところ、今度は当該契約の建付を採ることによる別のリスクが見えてくることもあるだろう。その場合は、筆者の前回の記事のインハウスロイヤーのリスク検討プロセスを行なっていくことになる。



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