見出し画像

コントラバスの構え方に関する考察

さて巷にはコントラバスの構え方のレッスンやワンポイントが溢れかえっていますが、そもそも僕の立場は「ザ・正しい構え方は無い!」というものです。初めにこの意識をしっかり持つことが、長いスパンで見ると良い結果につながると信じています。

この考えに至ったのは、現代はありがたいことにYouTubeなどで簡単に観察できる、様々な素晴らしい演奏家の姿勢を研究した結果です。立奏・座奏どちらでも、またそれぞれに色々な構え方をしていても、皆それぞれに素晴らしい音楽表現をしている。20年前ならともかく、今では「立奏はこんな感じ、座奏はこんな感じ」という傾向すら捉えられません。ということは自ずと、正しい構え方は一つではない、という結論になります。

まず奏者の身体つきはそれぞれかなり違いますし、加えてコントラバスの場合楽器のサイズや造りもバラバラなことが多く(なで肩なのか肩が張っているのか、横板の幅はどうなのか)、そんな雑多な条件の中で「左手のこの指が視線の高さに云々」「楽器のどこそこが体のどこそこに触れるように云々」と決めてしまうことに果たして意味があるのか、疑問です。もちろん、「これは一つの目安であるにすぎない」という意識がしっかりしていれば、役に立つこともあるのでしょうが。

更に、「自分が出したい音、やりたい音楽」というファクターが加わってきます。例えばオケをしっかり弾きたい場合と、ハイポジでソロを弾きたい場合、ロカビリーでスラップをしまくりたい場合では、もちろん適切な構え方も変わります。もっと言えば、同じオケ弾きでもウィーンっぽい柔らかい響きを目指すのか、アメリカっぽいブリブリしたベースを目指すのかでも変わるでしょう。

近年ようやく日本語でも少しずつ情報が見つかるようになってきた「身体に無理をかけない、自然な構え方」も、それだけでは十分ではありません。なぜならコントラバスを演奏すること自体が、まぁぶっちゃけ不自然な動きですし、「俺はこんな音が出せてこんな音楽ができれば、体を壊して明日死んでも構わない」という人もいるでしょう。いないか?笑。

他の弦楽器に比べてサイズが極端にでかいコントラバスでは、演奏に必要な「作業領域」も広いので、一つの構え方に凝り固まっていると他の作業領域に理想的に対応できない、という事実もあると思います。ローポジションとハイポジションの違いが代表的ですが、実は移弦ひとつ取っても(例えばE線とG線)、こんなに条件が変わる楽器は他にないでしょう。

では結局、僕ら奏者はこのカオスの中で迷い続けるしかないのか?ある意味その通りだとも言えますが、僕は自分のために「一長一短の原則」を確立することで、なんとか努力の方向性が見えてきました。これは、どんな方法論にも良いところと悪いところがあり、それを知った上で「自分で選んで」折り合いをつけるという、言葉にしてみたら当たり前の考え方です。

例えば「コントラバスの構え方」を考える場合。今のところ僕は一方に「①楽器を安定させて、そこにアプローチしていく方法論」、他方に「②自分を自然な状態に保ち、そこに楽器を近づけてくる方法論」の両極端を設定し、その間で「揺れ動きつつ」折り合いをつける、という作業をしています。こうして一つ軸を決めると、もう混乱することはありません。

①は楽器が安定することを至高とする方法論。例えば、楽器を垂直に立てる立奏、低い座椅子の座奏なんかが挙げられると思います。どちらかというと昔ながらのアプローチで、体格が良い奏者には上手く機能することも多いですが、ともすれば「ガタイがいい方がコントラバス演奏では有利だ」という考え方になりがちなので、イマイチ賛同できません。

対する②ですが、これは両足に重さを分散させて「普通に」立ったり座ったりしている状態に合わせ、コントラバスの位置や傾き加減を調整する、という方向性です。個人的には最初に楽器を始める時はこのアプローチが良いのではないかと思いますが、弾きたい曲が難しくなるとこの考え方だけでは楽器が安定せず、結局弾きにくくなってしまいます。なんとかして楽器を安定させる必要が出てきます。

そこでシチュエーションやレパートリーに合わせて、①と②の間を揺れ動きながら丁度いい着地点を探し続けることこそが、僕がやっている方法論です。メンドクサイですね!でもその「めんどくささ」を楽しめるようになると、一歩前進です。自分としては「揺れ動きながら」というのがミソで、教則本の写真のように構え方を固定しようとする方向性は良くないと思います。動いて音を出す以上は、構え方は動きの中で考えるべきでしょう。

長々と書いてきましたが、要するに「めんどくさがらず、色々試してみて、その度に自分がどう感じるかに正直でいる」ということです。主に自分の考えをまとめるために書いてみましたが、みなさんが構え方を考える際の一助となれば幸いです。色々試して、楽しくコントラバスを演奏して参りましょう!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?