私でも出来るかもしれないと


#この春やりたいこと

大学生になる時から始まり、大学を中退して今に至るまで私はずっとアルバイトとして働いてきた。

学生時代はともかく大学を辞めてからもアルバイトしかしなかったのは、私の中に正社員になる、なれる、という発想がなかったからだ。

大学は精神的な問題があってずっと休学してから結局辞めたから、単純に目一杯働けている自分が想像出来なかったのもある。

ただ、何よりも私を正社員を目指すということから遠ざけていたのは学歴のなさであった。

大学を中退したことで、私の最終学歴は高卒になった。今思えば世の中には高卒で正社員として働いている人だってたくさんいるのに、どうしてだか当時の私はこれで自分には正社員というものが人生単位で縁遠くなったのだと、謎の確信を持っていた。

そして、そんな私がアルバイトとして働き続け数年。緩い職場とはいえ、フルタイムで働きながら二十代も折り返しを過ぎた昨年。コロナという病原菌が一気に拡がった。

今まで出来ていたことが、出来ないことや、しない方が良いことに変わるのは一瞬だった。それこそ心の準備なんてさせてもらえるどころか、瞬きする間さえないぐらいに感じられる程だった。

そして、私はたくさんの後悔をした。

人が多いのが苦手だとか言っていないで、同人イベントやら推しのコンサートやらに行ってみれば良かったし、遠出が億劫だとちょっとした旅行にすら行かなかったなんて、とてももったいないことをしたなぁ、とか。まあ、とにかくたくさん後悔したのである。

そうして後悔しつつ目の前の仕事をさばく日々の中で、ある日仲の良い同僚の一人にこう言われた。

「フルタイムで働いてて、人にも教えるぐらい仕事覚えてて、しかもこの会社では社員含めてもベテランレベルの勤務歴なのに、どうして社員じゃないの?」

と。

もう、どんな流れでこの言葉が飛び出したのかは覚えていない。

ただ、これを聞いた私は、確かにどうしてアルバイトなのだろう、と思ったのだ。

学歴がなかろうと、社員と同じ時間働いて、同じ業務をこなしているのなら、私にも正社員というものになれる可能性が存在するのではないかと。

そう思った以上、それまでは何とも思ってなかった待遇に疑問を覚えた。

勤続年数が増えても、どれだけ仕事を覚えても変わらない時給が悲しく思えてしまった。

なので、会社の人とお話をしてみることにした。小規模な会社だったので、すぐに偉い人とお話出来るのはありがたかった。

まあ結局は、色々とお話をした結果、正社員どころか勤続年数が増えようが業務習得のレベルが変わろうが、評価をして昇給とかなんてする気もない、と勤務先には言われてしまったので、未だ正社員にはなれていない。

し、思い切って3月いっぱいでアルバイトも辞めてしまった。

ここで諦めてしまったら、私はまた後悔を一つ増やすだけだと思った。

今は二十代の内の正社員への転職を夢見て求人活動をしている。

まだ結果は出せていないけれど、出来ればこの春の間にお仕事を決めて、そして美味しいお菓子を買おうと思う。

それを持って、仲の良い元同僚に会いに行きたいのだ。

「あなたのおかげで私でも正社員になれるかもしれないと夢を見ることが出来ました」

そう言って頭を下げようと思っている。

春のお菓子が好きだと笑っていたその同僚の為にも、早くそんな日が来て欲しい。

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