【蔵人交流会資料】ハラスメント対策まとめ

2024年7月23日 09:02

◎ハラスメントとは

職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、身体的・精神的苦痛を与えることや職場環境を悪化させること(厚生労働省)。社会的に認定されるパワハラはもちろん、それ以下のグレーゾーンにおいても多くの損失をもたらす。

１，ハラスメントが起きる理由を理解する。
２，ハラスメントが起きたときの対処法を理解する。
３，ハラスメントを起こさない方法を理解する。

以上の具体的な方法論を持ってハラスメントに対処することを提案します。
ハラスメント回避の知見や行動は、自身の考えを他者に正しく伝える技術と同様であるとも言えます。家族や友人、同僚との関係、お客様への営業や対応など、様々なシーンで活用できる具体的な技術を身に着けてもよいかもしれません。

◎ハラスメントはなぜ起こるのか

ハラスメントの原因は人の意識だけでなく、組織風土や職場環境にあることも多い。達成不可能な高い目標を設定したり、責任者に実質的な権限を与えすぎたり、閉鎖的な環境では、ストレスを感じやすくなります。その結果、お互いを尊重する気持ちが薄れ、ハラスメントが起きやすくなってしまいます。

酒蔵では労働環境や労働時間、蔵人や杜氏、独立を志す過程において社会的不安が大きいことが予測されます。また、技術習得のための資産が環境に乏しいため、職人気質的な風土が形成されることが多いと思います。労働環境と技術習得の負荷が高く、所得も低いため、個人の心的不安が初期段階から大きいと予測され、ハラスメントが起きやすい環境であると思われます。

◎ハラスメントによって起こること

パワハラは、人権侵害であり、人としての尊厳が侵害されます。結果として、被害者のやる気を削いでストレスを蓄積させていきます。そしてストレスは仕事において本来の能力が発揮できなくなる大きな要因となります。自尊心も低下し、自分はダメな人間だと思い込んでしまったり、自分には価値がないと感じてしまったりする被害者が多くいます。

パワハラは心理的ストレス反応やうつ病を発症させるだけでなく、心身愁訴や、狭心症・心筋梗塞・虚血性心不全などの虚血性心疾患、また全身に激しい痛みが生じる線維筋痛症なども発症させることがわかっています。

◎

高ストレスによるパフォーマンス低下

・身体が緊張して硬くなる：緊張型頭痛、胃痛、肩こり・腰痛、顎関節症、歯ぎしり
・考えすぎるBusy Brain状態が継続する、認知力の低下：血管が収縮⇒脳や心臓への血流低下⇒前頭前野の働きが鈍くなる
・ストレスホルモン（コルチゾール）の過剰分泌：不安↑、筋肉↓・骨↓・自然治癒力↓、記憶↓ 、睡眠↓

◎高ストレスが続くことで起こる症例

・PTSD（心的外傷後ストレス障害）
ひどく衝撃的な出来事を体験した後、1か月以上の時間が過ぎても、その時の体験や記憶を無意識に思い出したり、夢に見たりすることなどが続き、日常生活に支障が出ることです。

・適応障害
自分の置かれた環境にうまく慣れることが出来ず、不安感や抑うつ気分、不登校、出勤拒否、対人トラブルなど、様々な症状・問題が出現し、社会生活に支障をきたす状態です。適応障害は様々な要因で起こりえますが、特に就学や就職、転職、結婚、離婚など、生活環境が大きく変わった際に発症しやすいと言われています。原因がはっきりしており仕事や環境が変われば改善する。

・双極性感情障害(躁鬱病)
うつ病だと思いながらも、極端に調子がよくなって活発になる時期がある場合は、双極性障害（躁うつ病）かもしれません。双極性障害では、ハイテンションで活動的な躁状態と、憂うつで無気力なうつ状態を繰り返します。躁状態になると、眠らなくても活発に活動する、次々にアイデアが浮かぶ、自分が偉大な人間だと感じられる、大きな買い物やギャンブルなどで散財するといったことがみられます。

・うつ病
「うつ病」とは一日中気分が落ち込んでいる、何をしても楽しめないといった精神症状とともに、眠れない、食欲がない、疲れやすいなどの身体症状が現れ、日常生活に大きな支障が生じている場合、うつ病の可能性があります。うつ病は、精神的ストレスや身体的ストレスなどを背景に、脳がうまく働かなくなっている状態です。慢性状態になると回復に時間がかかるため、うつ病になる前に環境を変えることや心療内科を受診する。

◎具体的な対処法

高ストレス状態は、悩みによって脳が機能不全に陥っている状態です。ＰＣのメモリ不足と進まないnow roading…、過積載の進まないトラックのように、脳の処理情報が重くて進むことができなくなっていると思われます。人間の体と心には自浄作用があるため、いつかは和らぐ時が来ます。それを早めるためには脳の荷物をどこかに下ろす事が大切です。

・悩みを紙に書き出す。

脳の中の考えを紙に移すことで荷物を下ろす。また脳の情報をアウトプットすることで情報が整理される。

・人に話す。人に話せない場合はお墓や神社に話す。

人に悩みを話すことで荷物を渡す。人は頼られると自身の存在を認めてもらえたと感じます。悩みを話すことは相手にとっても、自分にとっても良いことである。家族や友人など近しいところや、神社や機械などの実態がない相手からはじめて話す範囲を徐々に拡大し、悩みの分散と情報共有により、１：１のハラスメント関係を１：多数に分散する。

・まず行動する。

悩みや不安は過去と未来を想像し予測することで引き起こされる。人間は文明を得て以降では自身の過去と予測される未来から現在を造っていると考えられています。過去の失敗の記憶と、まだ起こっていないことに対する想像上の悩みが現在の苦しさを生んでいる事が多いと思われます。過去の失敗は過ぎ去ったものであり、まだ起きていない未来の予測が当たる可能性は低いものであり変えられる予測です。過去と未来を考えず、現在の物事や作業に集中することで、既に終わった悩みと、また起こっていない悩みにとらわれないようにすることが効果的です。

・睡眠を多くとる。睡眠を取れない場合は内科、心療内科へ。

脳内に溜まったゴミは寝ることで処理される。悩みで寝れないときは内科や心療内科に睡眠導入剤を処方してもらうことで強制的に脳内の情報を処理することも考えても良いでしょう。悩みと眠気が連鎖すると、日中の失敗も増え、どんどん追い込まれます。

・辞める、環境を変える

良い悪いの判断は自身の過去の環境と経験によって決められるため、人間の本心は他者によっては変えられず、他者への期待は叶わないと思ったほうが良いでしょう。他者の考えを変えて自分にとって良い結果を得た場合でも、他者にとっては自由を奪われた遺恨が残る可能性があります。

ハラスメントをする方も、受ける方も、自身の善悪の判断によって差異が生まれていると思われます。ハラスメントは自身の未熟さや環境依存による保身のために行われる自己防衛本能でもあり、早急に解決されるものではありません。

酒蔵は零細や家族経営が多く、環境が硬直しやすい閉鎖的状況の場合が多く見られます。そのため酒蔵によって良い悪いの判断がそれぞれ異なり、技術や知識習得に偏りが生まれ、自己実現や人間的成長の速度にはそれぞれ差があるため、自身と合う合わないが必ず存在します。

そこで無理に頑張るために自身を追い込み、体や資本を消費をしても、環境は変わらない場合が多いので、いずれ限界がやってきます。合わなければ環境を変えることを考えても良いでしょう。その結論を指示する人は必ず存在します。

・逆転の思考

自分が問題に対してどうするのではなく、いま起こっている問題が自分に対して何を期待しているかを考える。問題は自身の性質と他者や性質が相違を起こしていることで起こる事が多いと考えられます。善悪を求めるのではなく、起こっている問題を自身の性質を変化させて環境に適応する機会であると捉えることも良いでしょう。問題に対して善悪で捉えた場合、環境が変わった時にその善悪は取り消されるため、再度問題が起こる可能性があります。

◎自身がハラスメントをするリスクを回避する方法

・自分自身を知る。自身が持っているバイアスを知る。

人間は過去に過ごした環境と経験によって善悪の判断をそれぞれ決めており、現実世界を自分の見たいように見て判断しています。誰もが同じように見えていると思われる現実は、自分にとっての現実世界であり、他者にとっての現実世界とは異なっています。ハラスメントをしないためには、自分の現実と他者の現実では景色が違うことを知る必要があります。

精神的自己分析は親との関係を知ることから始まります。人間が一番最初に知る他者は両親です。自分と親との関係性がそのまま社会との関係性と同一となっている可能性があります。親から存在肯定(俗に言う愛)を素直に得られない期間が長く続いた場合は自己肯定感が低くなります。その場合、漠然とした悲観や孤独感を感じたり、思考や感情に偏り(認知バイアス)を持つことがわかっています。

人は環境と自分を適合させようと環境を変えようとする(ニッチ構築)
環境が変えられないと不安になる

親や家族との可能性が良好でも、他者や学校、職場などの社会との関係において自己肯定感が得られない場合にも偏りを引き起こす可能性があります。つまり人間は、自身の置かれている環境によって常に変化していく社会性の生物であり、自身と社会との関係を素直に認識し、自身がもっている性質を知ることがストレス状態から脱する方法であると言うことができます。

・他者を知る。

人間にはそれぞれ生まれ持った自己情緒と、社会に対する私という２つの顔を使い分けています。誰もが子どもの頃の自分と大人になってからの自分を合わせ持って社会と適合しようと絶えず変化しています。

私たちが他者に向けている顔は社会に対する私の顔であり、私たちが見る他者の顔は他者が社会に対して見せている顔です。他者の本当の顔は相当に打ち解けてからでないと見る事はできません。

社会に見せる顔には名前や肩書、資産や血統などの仮面がつけられ差があるように感じられますが、それらはどれも社会性の仮面であり生まれ持った人間の差ではありません。社会や職場での立場の優劣は人間の優劣とは違うものです。

人の尊厳に優劣はなく、赤ん坊や祖父母のように誰もが存在しているだけで地球環境の物質的一員や精神的支柱をなしており、自然生命や社会に対して貢献をしています。本来、人間や生物は何も持たずとも存在しているだけで価値を持っているものです。この自己肯定感を持てない場合はお金や言葉で自身を着飾り、社会的に大きく、多く持っているように見せようとしてしまいます。

他者に対してその人の自己情緒を見るような博愛を向けられれば、自他の優劣にとらわれず、ハラスメントをする可能性は低くなります。現代社会においてはとても難しいことではありますが、それでも少しずつ取り組んでみることを考慮するのも良いことでしょう。

・話し方、伝え方を知る。

私たちは心と心を直接つなぐことはできません。心と心は五感で入力できる現実を介してのみ繋ぐことができます。私たちの感情や想いは言葉と行動を介した現実でのみ他者に伝えることができると思われます。

言わずにわかる、察するということは、家族のように心と心が現実においてつながった経験のある間柄にしか発生しないため、社会や職場においては、他者に的確に正しく伝える具体的方法論が必要となります。

・共感と肯定から始める。否定から会話を始めない。

伝えることは信頼関係なくしては成立しません。人間は概念の共有によって信頼関係を確認し合う。会話においての信頼関係の構築は共感と肯定によって成立するため、挨拶、そうですね、はい、わかりましたの肯定を先に提示することで、自身の要望を伝えることができます。

否定から入ると人は動かない
いや、でもから会話を始める否定おじさんが無数に存在している
彼らの話は誰にも届かない

反対に、相手の言葉に対して、いや、でも、しかしのような否定形から入ると信頼関係が結べずに自身の依頼や提案を伝えることが困難になります。自己肯定感が低い人間は自己愛を満たそうと相手の言葉に即反応して、否定形から入り会話を奪うことが多くなりがちです。

会話はとても難しい
わかっていてもとっさに言葉が出ない人も多い
喋りが上手いコミュ力の天才を味方につけよう

反対意見がある場合でも、わかりました、そうお考えなんですね。と肯定してから代案を出すことが重要となります。相手を肯定することで自己を肯定することができるため、共感と肯定から会話を始めることを意識すれば、自分にとっても他者にとっても良いこととなるでしょう。

・相手を会話の主役にする。

共感と肯定からはじめることと同様に、相手の話を聞くとこが相手へ無言の肯定を伝える方法となるでしょう。相手の言葉を遮って話したり、自分のことを話し始めた場合、相手に否定を伝えたことと同様になってしまいます。相手の言葉に対して否定ではなく、共感→肯定→質問、共感→肯定→提案の順序を意識つけることで意図を相手に伝えることがスムーズとなります。

ハラスメント関係になる場合、このような会話関係が築けていない可能性が高いと思われます。ハラスメントをする者はその過去経験において強い認知バイアスを持っている場合が多いと思われます。その強いバイアスの早急な改善を期待するのは難しいため、まずは自分から行動を始めなくてはいけません。自分から始めても、相手方はその姿勢に気づかない場合が多いと思われるため、残念ながらハラスメントの解決にはいたらないと思われます。しかし、その他まわりの通常の人との良好な意思疎通によってハラスメントを分散したり、ハラスメント関係になる前の予防策としては十分に機能すると思われます。

・主語、動詞、目的語を意識する。反復する。

日本語は主語や動詞、目的語を省略しがちです。それは日本人が集団で生活し、概念を共有している場合が多かったため、これらを省略しても意思疎通が可能であったと考えられます。しかし現代では、それぞれの境遇が大きく異なるため、主語、動詞、目的語を省略すると意図が伝わらない可能性があります。専門用語が多い職場ではなおさらです。意図的に明確に主語、動詞、目的語を使い、それを反復することで、意図したことを相手に伝えることが可能となります。

仕事の説明や会話に多くの時間が必要であっても、正しく伝えて任せることができれば、その説明に要した時間以上の余暇が継続的に得られるために大きなアドバンテージを得られます。優秀な人ほど他者に仕事を託し、空いた時間で新しい技術を身に着ける好循環を意識しています。新しい技術の習得は自己肯定感の向上にもつながります。

◎アンガーマネイジメント(怒りのコントロール)

「怒りの管理方法」という意味の「アンガーマネジメント」。怒りの感情と上手に付き合うための心理教育または心理トレーニングとして、1970年代にアメリカで生まれました。当初は犯罪者のための矯正プログラムなどとして活用されていましたが、時代と共に一般化され、企業の研修などにも取り入れられるようになりました。「怒り」という感情自体は、自分自身や、身の回り、世の中を変えようとするエネルギーにもなるので、決して悪いものではありません。大切なのは、それを出すタイミングや、出し方を上手にコントロールして、後悔するような事態を防ぎ、相手に不快な思いをさせないようにすることなのです。

・怒りの感情をそのまま出さず６秒我慢する

「6秒ルール」というのは、腹立たしい気持ちが強くなったときに、6秒間だけ、その気持ちを表に出さないように我慢することです。腹が立ってきつい言い方をしたくなったら、こころの中でゆっくりと1から6まで数を数えてもいいでしょう。怒りの気持ちは、海岸に打ち寄せる波のようなもので、一時的に高まっても自然に収まってきます。怒りは急なストレスに対する本能的な条件反射のような反応です。現実と理性を分けて考え、怒るや泣くといった体の反応に身を任せずに理性によってコントロールする術を身に着けましょう。

・怒りが湧いた原因とその度合を考える

怒りは現実で起こった事象と、自身の認知バイアスの差によって起こります。怒りが発生した際は、自身の善悪の基準がどこにあるのか、自身の基準と現実に起こった事象の差がどれだけあるのかを考えましょう。私はいま怒っていると心のなかでつぶやき、自身のバイアスと現実とのすり合わせを行い、そのあいだを見つけることで怒りの反応を静めましょう。

怒るかどうかの判断は、自身と相手の社会的立場の相違によって起こります。子どものように社会的関係性のない相手に対しては怒りは現れず、人は寛容になります。子供に対しての怒りは、社会に適応しないと困るという理由から湧き出る怒りでしょう。相手と社会的関係性でつながっていたとしても、常に子供を見るような人間的関係性を見るまなざしを持つことで怒りの反応を抑えることが出来ます。

・その場から離れる。

怒りの原因になるものが明確なのであれば、その場や場面からすぐに離れることも対処法として有効です。たとえば、目の前にいる人が原因で自分が怒りを感じていることが明白なのであれば、いったんその場から離れて別の仕事に着手するなどの対応を考えましょう。

思考をその話題から無理やりにでも離脱させる、といった手段もあります。目の前のプロジェクトや話題に対して自分がフラストレーションを感じているのであれば、いったんその話題から離れて、思考を逸らす、といったイメージです。怒る機会を減らすことで、自分がコントロールできるレベルにまで怒りを落ち着け、これ以上新たな怒りを生まないための手段として効果的です。

・まあいいかとつぶやく。あくびをする。

怒りは「～しなければ」と言うマスト思考から生まれがちです。「まあいいか思考」とは、マスト思考とは反対の意味で、「まあいいか」と思うことで、自分の考え方や行動の許容範囲を広げる考え方です。

あくびは緊張やストレスを和らげるリラックス効果にも期待できます。腕や背筋を伸ばしながら大きく口を開けて深呼吸すると、気持ちも体もすっきりするでしょう。あくびには脳の状態を切り替える効果があるとも言われています。朝起きて睡眠から活動状態に移る時や、夜眠くなって活動から睡眠に切り替える時にあくびが効果を発揮します。

以上のように、ハラスメント予防策はストレスとの付き合い方や会話術、マインドセットなどの具体的解決策でやわらげることが可能です。その結果としてものづくりの精度や効率、営業の効果が増すことは想像に容易いことでしょう。ものづくりの資本は自身の身体と心の情緒であること考えれば、酒造技術の向上と同じように人間性の向上に目を向けてみても良いかもしれません。

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