☆の数は3の倍数で
日曜日の深夜までかけて完成させた初の自作小説を、わたしは月曜朝に投稿した。
いままで読み専だったわたしだが、根拠なき謎の自信(寝不足ゆえのハイテンションか?)をもって投稿ボタンをタップした。
夕方の予約投稿にしたほうが良かったかも、とは後で気づいたが、投げてしまったものは仕方ない。学校にも遅刻だった。
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その日の授業を終えてスマホを手にとり、わたしは自作小説のトップページを開いた。
(やった! ☆が付いてる!)
わたしは小躍りしながらスマホ画面を見つめた。
小説投稿サイト『ヨミカキ』では、レビューを書いてくれた読者の評価が1〜3個の星の数で表される。
わたしの初・投稿作『転生したら河童だったので相撲部屋に道場破りしてみた』のトップページに表示された☆の横の数字は15。
つまり五人の読者が☆3を付けてくれたのかも……と楽観的にドキドキしつつ、レビューしてくれた人数を見てみると、『15人』。
「……はて?」
などと朝ドラ主人公の口ぐせみたいな……否、思慮のかけらもない間抜けな感動詞が口をついて出る。
☆の数=レビュー数。
つまり☆1レビューばっかり大量にいただいてしまったのか! わたしの小説はっ。
残念やら悲しいやら、羞恥心が湧きつつも理不尽な嫌がらせを受けているような怒りすらごちゃ混ぜになる。
(いやいや、まずはレビューを確認だ……)
そう、少なくとも私の小説を開いて、読んで、評価をつけてくれた人たちのレビューなのだ。まずは冷静に受け止めなくては、駆け出し素人小説書きのハシクレとしても名が廃る。
私は最新のレビューから順に目を通した。
『☆1――よくわからなかった。』
(グハァ!)
歯に衣着せねえ素朴な感想がわたしにダメージを与えた。好きでも嫌いでも面白いでもつまらないでもなく、わからなかった。とは。
考える前に次だ次。考えたら心が折れる。
『☆1――やりたいことはわかるけど……』
(ゔっ!)
なんだその『……』は。先のレビューより理解度が進んでいそうなのが心にキツい。次。
『☆1――天狗の登場に期待!』
(予定ないよ! 完結済み短編だよ!)
期待してくれてるわりに☆1かぁ。河童じゃご不満かな? 天狗過激派なのかな?
『☆1――とても興味深く面白い』
(だったらなんで☆1だよ!)
操作ミスか? そうでなければ生成AIで絞り出したようなおざなりな感想が痛い。文章に感情がみじんも感じられない。次……。
『☆1――追放された皇女の成長譚!』
(絶対レビューする作品まちがえてるーー!)
『☆1――決めゼリフが寒い』
(グサッ!「オレと相撲を取ってもらおうか……尻子玉を取られたくなければなぁー!」のことかなぁ!涙)
『☆1――クライマックスがノれない』
(いいじゃん! ライバル力士のポロリ負けを「それは俺のキュウリさんだ」ってごまかして正々堂々取り直しを宣言するところとか……)
『☆1――……』
『☆1――……』
『☆1――……』
(あ”ーー……)
とても肯定的に受け取ることは難しい、すべてのレビューに目を通し、脳内ツッコミ、もとい言い訳に疲れてわたしはつぶやいた。
「小説、ダメなのかなぁ……」
視界がカイジばりに、ぐにゃあ〜〜んと歪んで、そしてブラックアウトする。
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ガクンっ。
頬杖から顎が外れて、私は目を覚まし、そして混乱した。
「おいおい寝るなよ〜〜」
教壇からは先生の困り声。クラスメイトもくすくす笑っている。
前の席から振り返った友達が、
「一日中眠そうでマジやべえ」
とニヤッとしてみせて、私は顔が真っ赤になった。
(夢かっ! あの☆1レビュー地獄は……)
するもんじゃねえな、夜ふかし。
ホンモノの六限目が終わって、わたしはロッカーにしまっておいたスマホを取り出した。
おそるおそる『ヨミカキ』を開く。
『転生したら河童だったので相撲部屋に道場破りしてみた』
ーー☆0
ーーレビュー0人
(あ”ゔ〜〜〜〜💦)
フォロワーさんに、小説投稿アピールしよ……(涙)
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