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名犬ラッキーと凡人

前回はラッキーと僕の出会いの話をさせて頂きました。

ダイレクトメッセージなどで、「私も愛犬とこんな出会いがありました」などの連絡を沢山頂きました。
どれも本当に素敵な出会いです。
十何年も一緒にいたら、皆それぞれのストーリーが生まれますよね。

そういう意味では、ラッキーはいわゆる一般的な生涯を終えたように思います。

初めは散歩を嫌がりほとんど動かず、
慣れたら率先してヒモを引っ張って歩き、
次第に一緒に横を歩くようになり、
一人では歩けなくなり、
最後は散歩が出来なくなる。

僕とラッキーは出会いこそ運命的であったものの、共に歩んだ道に、特段感動的なストーリーはありませんでした。
その普通の日常だからこそ思い出すと泣けてくるのです。

ラッキーと僕は『いたって普通の関係』だった。

思い出す事といえばとにかく、、、

「すぐに逃げるし」

散歩もちゃんと行って、ご飯もお腹いっぱい与えて、お家の中も自由に動けるのに関わらず逃げ出す事があった。
まぁ思い当たるフシとしては、6人家族の狭い家だから、、逃げ出したくなる気持ちもよく分かる。
僕も何度逃げ出したくなった事か。

玄関の扉を開けたら誰よりも真っ先に外に出ようとする。
だから扉を開けた時に出ないように、カラダを真横にして滑らすようにして出入りする。
でもたまーに急いでる時とかはバッて開けちゃう。
そしたらその隙にダダッと外に逃げ出す。
するとその加害者はこう叫ぶ。

「うわっ!!ラッキー逃げたー!!!」

その度に家族総出で探しに出る。
だいたい奴のいる場所は決まっていて、家から30メートル離れた場所にある小さな公園。
そこで何をするでもなくうろちょろ。。
少しばかり自由な時間を与えてあげたら、大人しくこっちに向かってきて観念する。
どうせお腹が空いたんだろう。

また同じようにラッキーが逃げたある日。
ただの一度だけ公園を探しに行ってもいなかった事があった。

家の近くのどこを探してもいない。いつもの散歩コースを超えてどっかに逃げたのだろうか。心配で必死になって探し回った。しばらく皆で探しても見つからなかった。

より捜索の範囲を広げて、最寄りの駅の方まで歩くことにした。

大好物のジャーキーを片手に駅まで歩く。
流石に駅までは行ってないか。車も通ってるから怖いだろうし。。
諦めて帰ろうと思って歩いていると、我が目を疑った。

ラッキーが宝くじ売り場の行列に並んでいたwww

「いや、なにしてんねん!!!」
思わずツッコんだ。

たまたま疲れて休んでた所が宝くじ売り場だったのか。はたまたあわよくば買うつもりだったのか。
僕を見るなり逃げもせず近寄って来た。

もしかしたらラッキーが並んでた人達に運を分け与えていたのだろうか。そう思う事にした。
それ以来ラッキーは逃げる事は無くなった。

そんなラッキーと僕は『いいパートナー』だった。

僕が少年野球の練習でコテンパンにされた後、家に帰ってくると真っ先にラッキーが励ましに来てくれる。

「今日も全然ダメだったわ。野球のセンスがないかもな。」って言うとラッキーが

「よし、じゃあ行くか!」と言う。

すぐに着替えてラッキーとともに外へ歩き出す。
向かった先は、少し前までコテンパンにされたグラウンド。

野球で散々やらかした後のグラウンドに到着すると、
ラッキーは誰もいないグラウンドで一目散にダッシュをする。

「安心しろ。君がどんなに足が遅い、下手だって叱られても、僕の方が誰よりも早いんだから」
そう言われているような気がした。

さっきまで嫌な光景だったグラウンド。ラッキーが右へ左へ縦横無尽に走る姿を見る事で、そんな記憶をかき消してくれた。

それを見てなぜか笑顔になる。
なんであんな事で悩んでたんだろうって。

そのラッキーを見て僕もダッシュをする。

そんな不思議な関係。。

そんなラッキーと僕は『兄弟』だった。
世話のかかる弟。ラッキーからすれば世話のかかる兄だと思っていたのかな。
毎日のように一緒にいたのに、大学で東京に来てからは年に数回しか会えなくなった。
そこからは、会うたびに年老いていくのがわかった。
次第に力強く歩けなくなるラッキー。

「どした?ラッキー!前の元気は?頑張れ!!」
と声をかけながら散歩をする。

そんなラッキーを見てどうしても、どうしてもしたい事があった。

「よし、ラッキー行くか!」と。
「うん」と声無くうなずく。

そう。
あのグラウンド。。

力無く歩くラッキーに、どうしても見せたかった。

少しでも足が早くなった自分の姿を。

あの時ラッキーが僕に元気をくれたように。
グラウンドに着いたら、何本もダッシュした。

それを見たラッキーが少しでも元気になってくれるように。

頑張って動こうとしてくれたラッキー。
何か感じてくれたのかな?

2014年11月22日、ラッキーは亡くなった。
立ち会う事は出来なかった。
東京と大阪の距離をこれ程遠く感じた事は無かった。

ラッキー
一緒にまた本気で走れる日を楽しみにしてるよ。
次はどっちが早いか勝負しよう。
もう少しここで鍛えてから向かう事にします。