見出し画像

歩くということ 2021.4.19 神奈川宿~品川宿

いよいよ、日本橋まで残すところあと30キロ弱だ。一気に歩いてゴールしてしまいたいところだが、足裏の痛みが激しく、品川周辺まで歩こうと決めて宿を出た。神奈川宿(現在のJR東神奈川駅周辺)はかつて神奈川湊(みなと)を見下ろすことができる景勝地だったそうで、歌川広重の神奈川宿の絵にその風景が残されている。現風景はかなり違うけれど、絵に描かれている坂道がいまも残っている。


坂道の多い神奈川宿エリアには、いたるところにひっそりとたくさんの神社やお寺が密集していてびっくりした。どうして、こんなにたくさんの神社やお寺があるのだろう?と、 ちょっと調べてみると、生麦事件で知られる神奈川宿周辺は幕末外交の中心となった場所で、尊王攘夷論の只中、新政府が外交交渉を進めた際に、外国人の命を守ろうと多くのお寺や神社を外国領事館や外国人用宿舎として使わせていたのがその理由だそう。なるほど~それは妙案だと頷ける。東海道沿いに点在する神社仏閣と歴史の関係はとっても興味深い。

東神奈川駅を越えると、東海道は第一京浜に合流する。味気ない幹線道路をひたすら歩いていると泣きたくなる。アスファルトからの放射熱と大量の車の往来で、急激に体力と気力が消耗し、休憩したいと思っても、一里塚もなければ座るところもなかなか見つからない。そんなとき、左手に走る京急の線路越しに神社らしき門がありその向こうに大木が見えた。

京急の踏切を渡るとすぐ目の前に立派な門構えがあり、遍照院とある。なんと、境内を京急本線が走るこの仏教寺院は1590年からこの場所にあるという。境内に入ると、大きなイチョウの木のおかげでたくさんの木陰ができて、心地よい風が吹く。この都会の中に、こんな仏教寺院が残っていることがとても有難く嬉しい。境内の石づくりの椅子に座り休憩していると、その場に居合わせた女性3人とおしゃべりが始まった。話が盛り上がって、一緒に写真をパチリ。静岡から歩いてきたとお話ししたら、お腹が空いたでしょ~と、チョコパイまでもらってしまった(笑)

旅の途中の出会いとおしゃべりが、本当に元気をくれた。腹ごしらえをして、さあ、もうひと踏ん張りだ。味気ない幹線道路をまたひたすら歩いた。しばらくすると、旧東海道に戻り、JR八丁堀駅を過ぎたあたりにある芭蕉句碑が目に留まった。芭蕉が江戸から郷里の伊賀へ帰る際に、門人とともにこの周辺にあった茶屋で詠んだ句が刻まれている。

麦の穂を たよりにつかむ 別れかな

芭蕉が江戸で詠んだ最後の句とされ、この年の冬、芭蕉は大阪で最期を迎えたそう。それを知ると、この句を詠んだときには既に、自らの命の限りを知っていたかのようだ。

八丁堀から川崎駅を左手に川崎宿がある旧東海道を抜けると待ちに待った看板が見えた!

東京都 大田区!

多摩川が陽射しをうけてキラキラ光る向こうには京急が走る。多摩川の土手に寝転び空を見上げると羽田から飛び立つ飛行機や、マンション群が見える。東京だ。この場所を求めてこれまで旅をしてきたひとが何百何千万人いるかは分からないが、そのうちの一人になれたことが嬉しくてたまらなかった。

ゆっくりと歩きはじめ大森周辺で空を見上げると、青い空に三日月が白い光を放ち、太陽がビルの合間に夕陽を放ちながら沈んでゆく。その姿は、ほんとうに綺麗だった。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?