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昆虫標本ダイエット【毎週ショートショートnote】※閲覧注意

胡蝶の夢を体現する如く、人が蝶に成るのだそうだ。

一頃流行った寄生虫ダイエットの亜流で、体内で蝶を飼う事により、莫大なカロリーを消費し痩せるという。都市伝説の類と捉えていたが、実際目の当たりにすると、痩身と美に憑かれた人間の醜悪さに虫唾が走る。

解剖台に横たわる検体の現体重は8200g。身長150cm、元の体重が推定50㎏。ミイラ状に干からびた表皮の下は、骨格と一部組織を除きほぼ融解消費された計算になる。
こんな有様でも、生命活動が維持されている事が恐ろしい。
さなぎ化した検体のCT画像には、気管支風の紋翅を広げ、血管と神経を模した口吻を伸ばし、腸管の形に胴体を蠕動させる、擬態の蝶たちが発達ステージ毎に収まっている。まるで展翅された標本箱の様に。
 
穴だらけのキャベツに化けた大脳辺縁を這い出たパピリオ=ロイコクロリディウムが一頭、蝸牛を喰い破って耳朶から羽ばたく。検体の脊柱で蛹殻ようかくの割れる音がした。



副題:胡蝶の蛹