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違法の健康【毎週ショートショートnote】

有病息災うびょうそくさいという言葉がある。
曰く、病を知らず健康である事は、己の心身への過信を生み、返って大病や短命に繋がる。何らかの病気を抱えた方が、己の健康に留意し長生きできるというものだ。

西暦2040年、国家財政を圧迫する医療・介護保険費に歯止めをかけるべく、政府は特別疾病対策法(有病法)を発令。遺伝子操作と投薬により、国民一人に持病一つを義務とした。
罹る病気は個人の意思で選択し、生涯担う病であれば症状の多寡は問わない。多くの国民は肩こりや腰痛、胃弱など致命性の低い病を抱えつつ節制に努め、一部は癌や心臓病といった爆弾を抱え、事実上の寿命を設定する事で限られた生を謳歌した。

ある男は、政府の提示する何の病も選ばなかった。
生来の難病を患う彼は、特例として罹患を猶予され、法の目をかいくぐって生き延びた。
そして病床から国政に打って出、総理となって有病法の廃止を実現の後、持病の悪化により惜しまれつつ世を去った。




副題:有病息災