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チクタク水兵さん【毎週ショートショートnote】

科学の授業中、資料集を枕に舟を漕ぎ、と言うか沈没していた。
「起きろ、マイネリーベ!」
急に鼻先を叩かれて頭を上げる。机に広げた元素周期表で、セーラー服の白い鳥が羽を広げていた。
「……カモメの水兵さん?」
「キャプテンと呼べ!」
不機嫌に足を鳴らしたカモメは、僕が落書きしたLi(リチウム)の原子ボートに乗り、3個の価電子を刺したシャーペンの折れ芯をメトロノームみたいにチクタク振った。
水兵リーベ僕の船~の続きは何だっけ。思い出す前にシャーペンを引っ張られ、僕も資料集の海原へ。仕方なく隣のBe(ベリリウム)に乗り込み、迷走する4価電子を2周期方向に揃えた。
「いざ黄金郷。遷移元素へ面舵一杯!」
「シマが違う。ここ典型元素」
水兵のくせに金銀プラチナ狙いか。溜息ついたところで思い出す。
名前があるシップス・クラークか。
「イエッサー、キャプテン=クラーク」
価電子メトロが景気良くチクタク跳ねて時間切れ。汽笛ならぬ終業チャイムが鳴った。


副題:H He Li Be,B C N O F Ne.Na Mg Al,Si P S-Cl Ar K Ca ⛴