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噛ませ犬ごはん【毎週ショートショートnote】

料理の世界では、必ずしも旨いものが勝つとは限らない。

B級グルメブームが一段落した頃、若年層を中心に『噛ませ犬ごはん』ブームが到来した。
調理中や盛り付けの失敗をSNSに上げ、萎えからの逆に萌えでいいねを稼ぐ。あざと可愛いならぬ、あざと不味いごはんである。
例えば、付き合いたてのパートナーが作ってくれる初々しい手料理。不慣れがゆえの失敗や不器用はウェルカムな人種は多い。変にこなれた一汁三菜より愛嬌があるし、ふるまう側にしても、入口でハードルを下げておいた方が何かと円満に運ぶものだ。

とは言え、あざと不味いとガチに不味いの匙加減は難しい。笑って許せてリカバリーの利く好印象な不味いを演出するべく、巷では噛ませ犬ごはん教室や噛ませ犬ごはんスパイスが人気を博し、引き立て用の噛ませ犬ごはんを提供するK級グルメ店には長蛇の列ができた。
かくして料理の質は急激に低下、人々の舌も比例して鈍り、食卓は犬も食わないゲテモノであふれ返った。


副題:味貧すれば舌鈍する