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チクタク水兵さん【毎週ショートショートnote】

物置に片付けたおもちゃ箱に、手製の古い水飲み鳥が眠っていた。
もう何十年も昔、縁日の輪投げで取りそこねた私に、祖父が在り合わせで作ってくれたものだ。ばね仕掛けの脚に木彫りの翼、欲しかったカモメと似ても似つかないそれは、祖父宅の鳩時計から外した人形だった。
申し訳にフェルトのセーラー帽を貼り付けた『水兵さん』を、幼い私はそれでもいたく気に入り、数日は夢中で眺めたものだが。動作の仕組みを知らぬ子供の事、じきに水兵さんは水飲みをやめてしまい、それきり見向きもしなくなった。

たまたま思い出したのが訃報を受けたからというのも冷たい話だが、無沙汰の詫びがてら返しておこうと、埃を払って最後の水飲みをさせた。
コップに口付けるなり首振りを始めた水兵さんは、チクタクチクタク時計の針音を奏で始め、日付が変わる間際、本物の鳥に変わって空へ発って行った。


見上げる満月に雲の描いた文字盤が真夜中を指し、少し間の抜けた『ポッポー』が12回響いた。


副題:大きなポッポの古時計