フシギドライバー【毎週ショートショートnote】
好事家が集う会員制バーがあると聞き、飲兵衛の俺は喜び勇んで現地を訪ねた。
「生憎ですが、ご紹介のない方は……」
黒服のマスターが慇懃に鎖した扉からは、磯風に似たにおいがした。
辺鄙な山村らしからぬ瀟洒な佇まい。看板は崩した字体で『不子偽ドライバー』と読める。
不子偽――フシギか。由来は謎だが、ドライバーという単語と先のにおい。干物の肴が名物なのだろう。
「ここで飲みたいのだ。金に糸目はつけん」
「どうぞお引き取りを」
「おお、待たせたね君」
押し問答を見かねたか、恰幅の良い紳士が俺の肩を叩いた。
「これは○○様。失礼いたしました」
マスターがころりと態度を変え、俺達を招き入れる。
「助かりました、恩に着ます」
小声で礼を述べた俺に常連客は笑い、肩へ置いた手に力を込めた。
「今日仕込むと、食べ頃はいつかねぇ」
「約一ヵ月。キープも可能です」
扉に鍵をかけ、マスターが涼しい顔でナタを握る。
「嬉しいね。木乃伊も出来たてが一番美味い」
副題:木乃伊ドライ・バー