大増殖天使のキス【毎週ショートショートnote】

ブームの口火は単純な誤植だった。
老舗洋菓子メーカー、エンゼル社の冬の新商品『天使のくちづけ』。究極のとろけ食感をうたった生チョコで、企画段階では『天使のくちどけ』と名付けられた。
ところが、デザイン担当が誤植に気付かずパッケージを発注してしまい、苦肉の策でそのまま商品化したところ、まさに天にも昇る味だと売れに売れ、天使のくちづけはその年の流行語になった。

おかげで巷は天使のくちづけの大増殖。街中に羽の生えたキスマークが飛び交い、看板やショーウィンドウでは唇をとがらせた天使が列をなした。商標上同一名では売れないため、類似の品名がごまんと発生。天使のキス・天使の接吻・エンゼルのくちづけ・天使のくちどけ・天使のくちだけ・天使にくぎづけ……

拡大解釈の果て、小悪魔に妖精、小人や妖怪、魔女にゴーストにモンスターまで、様々な幻想怪奇がキスを求めてひしめき合う事態となり、やがて街は季節外れのハロウィンカーニバルと化したのだった。

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副題：kiss and creature👻