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ビジュアル系男子に教えられた琴【毎週ショートショートnote】

「自分の目で見なきゃ解らない事ってあるぞ」
お決まりの口癖でルイが翳す両手には、夏の大三角がきれいに収まっていた。
「だから見てるじゃないか」
手元の電子図鑑に視線を戻し、僕もお決まりの返しをした。お次は『ハルトは頭で考え過ぎ』かな。天文部のルイと数学オタクの僕、月一の観測会は合いそうで合わない二人のラグランジュ点みたいなものだった。
「それでもさ、計算じゃ見えない景色もあるんだよ」
望遠鏡のセットを終えたルイが三角を解いて手招きする。
角度、距離、スピード、声、体温。トモダチの円制限で繋がった僕らの平衡解はどの辺だろう。表情が丸分かりの背中。犬の尻尾よろしく振り回す掌。LikeからLoveに進めないL点を、多分僕一人が持て余している。

「触らなきゃ聴けない音もあるんだろうね」
ぎりぎり独り言の大きさで呟いて、うなじ越しに覗き込む。
――そのうち絶対弾いてやるよ。
レンズに収まったベガの見えない小天体ベルトを頭の中でかき鳴らす。



副題:Loverangian points