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タイムスリップコップ【毎週ショートショートnote】

待ち望んでいたできごとが実現・成就した時を指して、『~のあかつきには』と表現する事はよく知られている。
しかしこの言葉、元来は夜明けを意味する暁ではなく、さかずきであった事を知る人は少ない。

まだ世に時計が誕生する前、人は時間を流れゆく水になぞらえ、定形なく常に変化するそれを汲み上げ、その場に留める杯という道具を聖なる器と位置付けていた。
キリスト教の聖杯しかり、神前式の三々九度しかり、杯は時をすべる不老不死(=神)の象徴であり、受け継がれた歴史であり、杯に注いだ液体を口にする事が、神の力を取り込み己のものとする儀式でもあった。


現代においても、コップなどで飲み物を飲む際、昔の記憶が鮮明に蘇る事がある。
あの何ともむずがゆく、それでいて飲み干す間に不思議と胸に満ちる温かさは、杯を介して神の力の一端に触れた証なのだ。
ちなみに大量飲酒した後、時間が飛んで前後の記憶が抜け落ちていたりするのも、もちろん神の力なのだ。



副題:ってなわけで、かんぱーい!🍻