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告白雨雲【毎週ショートショートnote】

雨の無い国に行きたかった。
「雨雲はね、上から見ると白いんです」
紫陽花の頃、青灰色の空を仰いで笑った彼は、紫雨しぐれ月の暮れに天へ昇った。
長患いの末の別れはただゝ静かで、煙の匂いを連れて焼場から帰った後、私は硝子を打つ雨を聴きながらプリンスを口遊み、彼のくれた幾通かの手紙を飛行機に折った。

粉砂糖より真白でもろい欠片を翼に折り込んでいると、便箋の隅に走り書いた一文が目に留まった。
――どの雲にも銀の裏地が付いている。
彼の国の言葉で、パンドラの箱に残る希望の意味だったろうか。呉藍くれないに灼けた空を切る機影を見送り、これで合切無くなったと私は思った。
彼を溶かした雨が地上の何処へ降るとしても、私以外の誰かの元に違いなかった。追わないと約束させられたけれど、本当は私もあの翼に乗り、雨の無い雲の上へついて行きたかった。

煤けた雫が眦を落ち、最後の一枚を叩く。
この国では出せない届に並んだ、二つの名前を荼毘に付した。



副題:Every cloud has a silver lining.