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カミングアウトコンビニ【毎週ショートショートnote】

今どき珍しい伝言板のある駅のそばに、絶滅危惧種みたいな目安箱を置いたコンビニがあって、夕方の搬入のついでに箱の中身を回収するのが僕の仕事だった。

片手に満たない数の投書が途切れる日は一日もない。休憩がてら僕は駅へ車を転がし、構内のベンチで見切りの弁当をつつきながら投書を読む。
内容は店への要望じゃなく、たわいない内緒話だったり、溜め込んだグチだったり、のしかかるような重荷だったりした。誰が始めたか分からないけれど、抱えた秘密を目安箱に投げ捨てる事が一種の禊になるんだろう。
僕は黙って投書を読み、読み終えたものから細かくちぎって風に流す。
通り過ぎる切片は紙の重さのハチドリになって、物憂げな黄昏を伝書鳩の顔で羽ばたいていく。

行方を追いかけるのはやめてしまった。僕は黙って光景を見送る。
明かせなかった告白たちは、本当に届けたかった誰かの夢へ辿り着き、夜通し想いをさえずるんだろう。
僕は何食わぬ顔をして、次の店へ車を走らせる。


副題:カミングバード~coming-bard


本作品はamazon kindleで出版される410字の毎週ショートショート~一周年記念~ へ掲載される事についてたらはかにさんと合意済です