しゃべる画像【毎週ショートショートnote】
過度な機械化と極限まで進んだ没交渉の果て、人類は声を失った。
ネオ・メタバースと量子技術の発展により、思考は直接脳内で伝達され、宇宙全域と瞬時に交感が可能になった。旧時代の様に、思考をあえて言語化し、『音』として限られたコミュニティに発信する必要がなくなったのだ。
退化した声帯と共に会話を捨てた人類は、更なる効率を求め、視覚認識と処理能力を磨いた。
世界共通画語たるUoWピクトグラム『バベル』を設計、言語イメージと連動し、組み合わせる事で意思疎通を成り立たせた。人々は画像をもって語り、描く事と喋る事がイコールになった。言語解釈の齟齬がもたらす争いや対立はやみ、国家間の垣根は薄れていった。
声に次いで、音もまた失われた。
音楽は美術に併呑され、あらゆる曲が画像で歌われた。物音という物音が鳴りをひそめ、地球は限りなく静かになった。
時の声すらも途絶えた後。
語る名を失った星では、無量大数の画像たちが無言のお喋りを交わしている。
副題:Caricature of Babel