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錦鯉釣る雲【毎週ショートショートnote】

釣仙の太公望が雲海で釣りをしておりました。
いつもの様に竿を垂れ、空鱈や雷魚、鰯雲など釣っていた最中、伸ばし過ぎた釣り糸が雲を抜けてしまいました。

雲の下には周の国があり、時の文王が城の池に数多の鯉を飼っております。太公望の釣り針は丁度池の中へ入り、丸々と肥えた錦鯉がかかりました。
竿を引いた太公望は目も絢な釣果に喜び、幾度も竿を下界へ投じます。さすが釣仙と申すべきか、三百六十五匹あった池の錦鯉をすっかり釣り上げてしまいました。

庭師に報告を受けた文王は、空になった池の上に錦の彩雲が広がる様を見て、内心苦虫を噛みつつも、
「かねてよりの大望が叶う吉兆である」
斯様に唱えて戦を起こし、鯉盗人への恨みを、宿敵である殷王朝を倒す事に向けたのです。
この件を雲上で聞いた太公望は、釣った錦鯉を連ねて虹の梯子と成し、文王に返済に赴いた後、盗みの罰として周の軍師を務める事となりました。

世に『封神演義』と伝わる神怪小説の縁起でございます。


副題:釣鯉演義