見出し画像

穴の中の君に贈る【毎週ショートショートnote】

この件が僕の差し金だと、君は思いもしないだろう。鏡面に反射する光に、企ての顛末を見届けて思う。

僕には離れて暮らす姉がいる。互いの職務上必然なのだけど、年々彼女の中から僕の存在が薄れていくのが、内心たまらなく淋しかった。僕にとって、彼女は世界の全てと言っても過言ではないのだから。
僕にはもう一人弟がいるが、これが乱暴で甘ったれで、姉の気を引くために狼藉を働く男だった。
迷惑をかけてまで顧みられたくないけれど、やはり胸がふさいだ。
繰り返し叱りながらも弟に情を恵む彼女は、僕に何を与えてくれただろうか。

君に笑ってほしかったんだ。
弟との大げんかの末、ついに岩戸へ引きこもった太陽が、ようやく姿を現した。
それが僕の為でなくても、笑っていてほしいんだ。
月鏡を閉じ、輝きを取り戻した地上に背を向ける。

ほの暗い夜の宮の扉を開くと、真昼の様な光が満ちた。
月読つくよみ
懐かしい顔が僕を見て笑う。

地上は再び、束の間の夜に沈んでいた。



副題:回帰日蝕かいきにっしょく