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アルプス笑点かい?【毎週ショートショートnote】

アルプス乙女は悩んでいた。
小柄な姿にまん丸顔、果汁もしたたる十四、もといジューシーな姫リンゴである。
何につけても嬉し恥ずかしの実り頃。風に誘われては笑い、雨にくすぐられては笑い、お日様に笑われてはまた笑い。ヨーデル歌手のごとく高らかに、真っ赤な頬をますます赤らめ、大口開けてよく笑う。
あんまり毎日笑うものだから、しまいに実のくぼみへツル割れの亀裂ができてしまった。
これではせっかくの高嶺の果実が高値で売れぬ。リンゴとは言え乙女、器量を損ねたと落ち込んで、お次は溜め息の大合唱。つやつやほっぺもかき曇り、まん丸顔も三角にしおれる有様である。

見かねた農園主が、出荷用のネットを重ねて座布団に敷き、『アルプス笑点かい?』とシャレ含みに持ち上げた。
バナナのスイートスポットは甘さの印、リンゴのツル割れも完熟の印。農園主の心遣いに癒され、アルプス乙女の笑顔が復活。美味しさ満点のリンゴとなって、食べたお客も満面の笑みにしたのである。



副題:乙女の実り🍎
※リンゴのツル割れ:りんご果実の中身の成長に果皮が追い付かず、ツル元のくぼみに亀裂が入る現象。品種別では『サンふじ』に顕著。
気象条件により発生率は異なるが、ツル割れはよく熟して内部が充実し、栄養価・蜜入り率が高い傾向にある=美味しい。
亀裂があるため通常果より日持ちは劣るものの、亀裂部分を取り除けば通常果と遜色なく楽しめる。また傷アリ品として安価で買える事も。
お見かけの際は手に取ってみて下さい。