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しゃべる画像【毎週ショートショートnote】

ピクトリンガルシステムの開発により、AI解析で絵画の思考音声化が可能になったと聞き、人々はこぞって展覧会へ足を運んだ。
画家たちが作品に込めた情熱とメッセージを、本『画』に喋ってもらう。どんな名解説にも増して、刺激的で心動かされる試みだと期待したのだ。

ルーブル美術館では、レオナルド=ダヴィンチの『モナリザ』に向かい、技術者が機材の調整を行っていた。
500年以上の長きにわたり、謎めいた微笑で観衆を魅了し続ける彼女の第一声やいかに。世界中のモニタの前では、ネット配信を一耳聴こうと、大勢のファンや美術関係者が固唾を飲んでいた。
システムが稼働し、ガラス越しの唇からおもむろに『声』が流れる。

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その湿っぽく掠れたノイズは、キャンバスを絵筆の滑る音に似ていた。
なるほど絵の声とは、絵の具を置く音に他ならない。とつとつと流れる筆遣いに耳を傾けながら、人々は各々の心に描く彼女の、この上もなく美しい声を聴いた。



副題:名聲鑑賞

本作品はamazon kindleで出版される410字の毎週ショートショート~一周年記念~ へ掲載される事についてたらはかにさんと合意済です