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レオナルド・ダ・ヴィンチの憂鬱


#清潔のマイルール

清潔とは何を為すために必要な概念だろうか。現在、私たちの多くは対して汚れていない服を毎日着替えて洗濯し、少し汗ばんだ程度の体でもシャワーを浴び、何か害が生じた訳でもない空間を除菌し、目に見えない菌を駆逐して過ごしている。

とはいえ、今を切り取れば「コロナ対策」という誰の頭にも理解可能な大義名分が存在している。マスクを着用し清潔でいる事で「無害な存在であることのアピール」は社会生活をスムーズに行う上では重要な儀式である。

しかし、コロナ禍以前に関してもマスクの着用やアルコール消毒を除けば同じような生活様式だったはずだ。女性が男性に求める要素の上位に「清潔感」が1位にランクインする世の中である。(ここでの清潔感はあくまで「感」が重要であり実態としての清潔が求められている訳ではないのはeverybody knows)

果たして清潔とは何か。己の慣習を問う前に少し時代を遡ってみることにする。


風呂に入ることがタブーだった時代

舞台は中世ヨーロッパ。この時代にも疫病が蔓延していたのはご存じだろうか。そう、ペストである。今でこそネズミ→ノミ→ヒトを介して感染が広がったとされているが、当時ではそこまで感染経路は特定されていなかった。

一時結論として、「大気中や水に含まれる有害物質が鼻や口、毛穴から体内に侵入している」という見解が発表された。

当時のヨーロッパでは大衆浴場が一般的であったが、そのお触れが出るや否や浴場は閉鎖された。さらには今まで洗い流していた体の汚れは毛穴を塞ぐ保護膜としての働きを持つと考えられたので、お風呂に入る事ばかりか顔を洗う事すら半ば自殺行為と考えられるようになる。

そこから300年間、ヨーロッパの人々は風呂に入る事をやめてしまう。
ワンピース風に言うなら『大不潔時代』の始まりである。まさに浄が不浄に、不浄が浄に切り替わったといえるだろう。

その当時の人々は匂いを誤魔化すために香料やパウダーを体にまぶし、ブラシではたくぐらいしか汚れを落とす術がなかった。そのため、貴族や平民など階層を問わずに髪や体はノミやシラミだらけだったというから、今では俄かに信じられない事である。

当時はそれが「常識」であり、考え得る限り「清潔」であったわけだ。


レオナルド・ダ・ヴィンチの都市計画

中世ヨーロッパといえばこの人物を忘れてはならないだろう。レオナルド・ダ・ヴィンチ(1492〜1519年)である。彼は芸術家として有名だが、その他にも医学、建築学、音楽、占星術など様々な分野で業績を残している万能人とされる。

当時、彼が滞在していたミラノでも例外なくペストは猛威を振るい、5万人以上が亡くなっている。およそ住民の3分の1が死亡したことになる。

しかし、さすが天才はただでは転ばない。ダ・ヴィンチはペストの猛威を受けて公衆衛生学を取り入れたミラノの再建計画を構築。ミラノの住民を移転させて人々を分散させるというモデルを考案した。長くなるのでここでは割愛させていただく(興味を持った方は最下段のリンクからどうぞ)。


スケッチの微生物

いかにすべてに通じる万能人でも、未来のことは分からなかったに違いない。

レオナルド・ダ・ヴィンチが残したスケッチに、微生物が棲んでいたという研究が発表されたのは近年の事である。採取したサンプルをDNA解析して見つかった微生物からは、過去に作品が劣悪な環境下にあったという事実が発覚し、その中からは悪名高いサルモネラ菌と大腸菌なども検出されたという。

彼の名誉のために誤解を解いておくと、この微生物たちは5世紀の間に様々な環境下や人の手に触れてきたためであり、巨匠の手が有害な細菌だらけだった訳ではない。この研究自体も絵に害がある微生物の対処に貢献していることは明言しておこう。

しかし、500年後の今になって「あなたの書いた絵に細菌うじゃうじゃいましたよ」と知らされる気分はどうなんだろうか。天才の心境は図れないが、意外と天国で喜んでいるのかもしれない。


清潔のマイルール

時代を遡り、ひとえに清潔といっても様々なバックグラウンドによって意味する内容が違ってくる事がわかった。

掃除や身なりについて特に拘りはないが、後世に細菌を残すのは少し憚られる。万能人ではない私は、後世の人類のためにも手を洗い空間を除菌し、菌を駆逐する活動を続けようと思う。

私が死した時には細菌もろとも火葬で弔ってもらうことにしよう。骨壺に入りきらない遺灰=残骨灰は肥料になり土に還っていくらしい。

未来の子供がシャベルで遊び、手についた土。洗い流されるその1粒に私の残滓が宿っているのかもしれない。


そして、いつの日か天国に声が届くのだろう。
「あなたの使ってたPCからうじゃうじゃ細菌が出てきましたよ」と。


参考にさせていただいたサイト一覧↓


・INSIGHT ダ・ヴィンチの理想都市から考える、新しい社会のすがた

・ルイ14世が風呂に入ったのは生涯に一度だけ?汚いほど良いとされた、不潔400年の歴史

・女性の好きなタイプNo.1は「イケメン」「背の高さ」にあらず圧倒的1位のモテ要素とは!?~全国の20歳~49歳の女性4500人に聞いた「モテる男性に関する調査」~

・“火葬場で残った遺灰”はこう処理されるhttps://getnews.jp/archives/2472388


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