ピリオド
「いまどこにいる?」
「8号館前」
こんな些細なやりとりが、その人と交わした最後の言葉だったりする。
長い人生の中でいくつも訪れる別れは、向かい合って別れの言葉を交わす別れ方よりも、いま思えばあれが最後だったなっていう曖昧な別れ方のほうが遥かに多いことを年々知りゆく。
それでも、どんな形であれいつかは別れが訪れることで、それが思い出をぎゅっと凝縮させて、完結させて、同時にそこには永遠性が生まれる気がしている。
いまどこにいる?って、もう聞けなくなるなあ。相手の居場所を問うこの質問は、すごく距離が近い。物理的にも、相手が自分のすぐ近くにいるのだろうし、自分が相手の元へ向かっている途中なのかもしれない。
だからこそ、それが最後に交わした言葉になると途端に遠さを感じて、胸に突きつけられた別れの事実にぐっとくる。
サークルの追い出しコンパからの帰り道。
閉店間際の花屋さんに駆け込んで、花束を買った。
お花が欲しくて、でも袴姿で自分のために花を買っているっていうことを客観視して恥ずかしくなっていたら、「プレゼント用ですか?」という店員さんの問いかけに思わず頷いてしまった。
着物の袖口から春の冷たい夜風が入り込む。
桜はまだ咲いていない。
卒業したよ。おめでとうと、ありがとう。
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