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思い出される人のこと ⑤

幼稚園以前のことでもう一つ思い出されることがあります。
昭和35年9月8日の晩のことです。
翌日私の妹の出産で、母が病院に入院したのでした。
それ自体はめでたいことなのですが、私にとっては母親がいない初めての晩を過ごしたのでした。
夜遅くなって、多分そろそろ寝ようかという時間になって、急に不安になったのですね。
前後のことは全く覚えていないのです。
とにかく不安で泣き叫んでいました。
その晩は母方の祖母と母の姉が、泊りにきてくれていました。
父は仕事でまだ帰っていませんでした。
さんざん泣いて、そのうち叔母が根負けして、それじゃぁお母さんに会いに病院まで行こうと言い出して、その声を聞くと、一度は泣き止んで、いよいよ夜出かけるために家の戸を開けて外を見ると、また泣き出したのでした。
扉を開けると、見えるのは正面に30Mくらい離れたところにある隣家の明かり。
これから出かけようとする右手の方は、黒々とした雑木林の上に星空というありさまでした。
今度はそれが怖くて泣きだしたのでした。
叔母があわてて扉を閉めてくれて、一度は泣き止むのでしたが、母に会いたくてしばらくするとまた泣き出す。ということをニ三回繰り返したのでした。

上記は私の一番古い思い出です。
私が住んだ当時の船橋市の片田舎、夜の暗さ、静けさがはっきりと焼き付いています。

叔母は、小柄で優しい方でした。
洋裁で仕事をしていましたが、布地を買って洋服を作ってもらうようなことをする人も次第に減り、修繕だけでは商売にならず、晩年は大変だったようです。



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