【論文紹介】 急性リンパ性白血病の新たなCAR-T療法

2023年9月7日 New England Journal of Medicine
"Base-Edited CAR7 T Cells for Relapsed T-Cell Acute Lymphoblastic Leukemia"

CAR-T療法は患者さん自身のT細胞を採取し、それをがん細胞を攻撃出来るように編集してから体内の戻すことで、自分の免疫細胞でがんをやっつけるという治療法である。

B細胞性の急性リンパ性白血病ではB細胞の細胞表面蛋白質を標的とした治療が有効であり、すでに治療の現場で使用されているが、T細胞性の急性リンパ性白血病ではがん細胞の表面蛋白質を標的にするとCAR-T細胞自身も同じ蛋白質を持っているため、CAR-T細胞がCAR-T細胞を攻撃してしまう"CAR T-cell fratricide"という現象が問題であった。

そこで、今回の臨床試験では、CAR-T細胞がCAR-T細胞を攻撃してしまうという事態を防ぐために、CRISPRの技術を用いてCD52、CD7レセプター、αβT細胞レセプターのβ鎖をコードする3つの遺伝子を編集して不活性化し、そのCAR-T細胞を体内に戻すことで、CAR-T細胞ががんのT細胞だけを攻撃するように工夫している。

これによって根治を期待して行われた同種造血幹細胞移植の後に残念ながら再発してしまった患者さんで、寛解を達成することが出来た。その患者さんは2回目の同種移植に進むことで、無事に寛解を維持できているとのこと。

合計3名の患者さんに行われ、お一人は残念ながら亡くなってしまったということだが、同種移植を行った後の再発で次の治療がなかなか難しい状況において3名中2名に寛解を達成することが出来たこの治療は非常に素晴らしい成果である。

これは前回記載した基礎研究とは異なり、既に臨床試験で有効性が示された論文であり、間違いなく実際に患者さんに届けられる治療法になっていくものであり、世界で最も権威のある臨床系の医学雑誌であるNew England Journal of Medicineに掲載された研究である。

実用化に向けたプロセスが進み、患者さんに届けられる日が一日も早く来ることを期待したい。

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