サービスを制するものはビジネスを制する(東洋経済新報社)山口英彦
■レビュー
▼サービスとは?
問題や要望を携えた顧客が経験を通して、問題が解決したり気分が変わるビジネス活動をサービスというという。 サービス業などというものは存在せず、どの業界もサービスと関わりがある。その割合が多いか少ないかにすぐない。
▼サービスが持つ特徴とは?
【無形性(不可触性):買う前に見たり触ったり味わったりできない】
・顧客に自社サービスの便益を伝える工夫が必要
・チャネルは流通ではなく、紹介者機能が中心
・所有権や特許は発生しない
【同時性(不可分性):生産と消費が同じ場所で行われる】
・顧客に近いロケーションでの展開が求められがち
・提供現場で、顧客ニーズ把握やサービス改善が可能
・分業や専門特化が難しい
・顧客接点を担う人材の質が成否を分ける
【異質性(変動性):都度提供される内容が変わってしまう】
・カスタマイゼーションが発生し易い
・顧客を知ることが良いサービス提供につながる
・顧客の質が、サービスの質に影響する
【消滅性:提供されると即消えてしまう】
・需要に見合った供給水準維持がカギ
・需要の平準化がカギ
・作り直しできない⇒失敗時の挽回策が重要
▼顧客満足度を上昇させるためには?
顧客満足度を向上させるためには本質サービスはミスなく提供しながら、表層サービスにあたる属性のうちトータル顧客満足度に影響をあたえる属性を集中的に高めていく。
■本書のPoint
サービスプロフィットチェーンとは?
サービス業における経営指標の因果関係をモデル化したものである。 経営者の意識行動がサービスプロフィットチェーンの効果に影響する。つまり 企業文化や経営理念が魅力的なものであり、経営者含めて全従業員がその文化と理念に共感していることが成功の鍵である。
<要素間の因果関係>
1.社内サービスの質が従業員満足に影響
2.従業員満足度が高い従業員ロイヤリティを生む
3.高い従業員ロイヤリティが生産性を高める
4.高い生産性が、サービス価値を高める
5.高いサービス価値が、高い顧客満足度を生む
6.高い顧客満足度が、顧客ロイヤリティを生む
7.高い顧客ロイヤリティが企業の業績向上に繋がる
<サービスプロフィットチェーンの活用場面>
①新サービスの設計に生かす(好循環の全体像)
②既存サービスの問題解決に生かす(ボトルネック特定)
③優れた企業をメンチマークしヒントを得る(真似る)
■サービスの現場にたりない発想は何か?
1.標準化は楽しい
標準化というと必ず反発する人がでてくる。 現場から創造性をはく奪されると反発にあう。 しかし標準化と創造性は必ず両立できる。
<標準化のメリット>
・コスト削減効果
・サービス品質の安定化
・需給コントローるの容易化
・PDCAが回しやすい
・新人の立ち上がりが早い
<標準化と創造性は両立可能>
・リッツカールトンやディズニーランドも両立している
・定型作業はマニュアルで徹底し、付加価値のところに創造性を発揮してもらう
2.捨てる、止める
最近は、スマートエクセレンスが流行っている。ビジネスホテルだとよく眠れることに特化する。新しいチャレンジに喜々として取り組めないのは、同時に捨てる、止めることを実行していないからである。やるだけでなく、やめていないので増える一方である。新しいことをやるのであれば、それと同時にやめること理解する。両手が常にふさがっている状態を当たり前に思ってはいけない、それこそ集団皿回し状態になってしまう
3.PDCAは甘くない
PDCA(PLAN、DO、Check、Action)をなめてはいけない。これを磨き上げてこそ初めてサービス差別化が実現できる。特に形がないためCheckが難しいと言われる。リーンスタートアップもよいが、やるだけやってフィードバックがないことが多発して、他者に模倣され差別化できなくなる。そうならないためにも、声を聞くときにまだ付き合えていない顧客の声も聴くことが重要である。障子を開けてみておきたい世界としては、現業ではまだ付き合えていない市場、事業特性が似ている他業界の動き、海外の同業などがある。
4.投資する知恵と度胸
時には、身の丈を超えた投資が必要と時がある。先行投資が必要なときがある。費用発想(短期の視点でコスト削減ばかりに目が行く)と投資発想(長期の視点)があり、ビジョナリーカンパニーは長期的な投資発想でビジネスを持続可能なものに昇華させている。
<投資発想の例:ヤマト運輸>
・「サービスが先、利益は後>
・社員が先、荷物はあと、車が先、荷物は後とサービス水準をあげ潜在需要を開拓していった
・先に黒字化しようとするのではなく、エクレんとなサービスがあれば利益がついてくる
・工場や研究開発も投資発想である
・ヤマトの宅配便を始めた後すぐに日通など大企業は費用発生で静観したことがヤマトの成功につながった
5.オンリーワンを諦めない
サービスは模倣されやすい。外部から見るとすべてがみられている。組織文化や人で差別化することで競争優位性になるのはビジネスが軌道に乗ったあと、ビジネスの前半はもっと機能など分かりやすい優位性を作ることが重要である。
■まとめ
現場の発想の多くは目に見えやすく、理解しやすい合理性がある。言い換えれば誰でも簡単に思いつけるため、 他社にさをつけようとする努力が、逆に他社のサービス同質化を招く。あとは「どれだけ早く、徹底できるか」である。
<経営者に求められる目線>
・投資発想
・標準サービス志向
・マニュアルがベース
・捨てる止める思考
・仕組みに依存
■サービスの類型
①プロフェッショナル型とプロセス型
代表的な分類の一つが、プロセス型とプロフェッショナル型の区分です。サービス内容や提供プロセスが予め定められているのがプロセス型で、ファーストフード、ビジネスホテルなどが該当する。プロフェッショナル型は販売時点でサービスの内容や提供過程が厳密に定義されておらず、顧客の要望や状況に応じる。
②提供物による分類
(1)チエを提供するサービス
サービス提供側の専門的な知識やノウハウを用い、顧客状況に応じてソリューションを個別設計するサービス。このタイプのサービスはプロフェッショナル型と同様で才能に恵まれた人材の採用育成がポイントになる
(2)有形財を提供するサービス
予め提供側用意した有形財(モノ)をベースに従業員が介在して顧客に提供するサービス。あらかじめ用意した有形財とはホテルでいえば、客室、レストランなどになる。こういう有形財に顧客接点にいるヒトが何かの手間を加えて顧客に提供する。
(3)プラットフォームを提供するサービス
多数の個人や法人を集客し、経済活動を営んでもらう場を提供するサービス。プラットフォーム型はいち早くクリティカルマスを超え、先ほど述べたネットワーク外部性によってプラットフォームの参加者が増え続けることで好循環に入ることで競争力が強化される。
本書の目次
序 章 あなたはサービスを知っていますか?
第1章 サービスを始める ~ビジネスモデルの設計
第2章 サービスで魅せる ~品質の追求と訴求
第3章 サービスで稼ぐ ~安定化と生産性向上
第4章 サービスを広げる ~持続的成長への試練
■著者・出版
山口 英彦(ヤマグチ ヒデヒコ)
グロービス経営大学院教授
東京大学経済学部卒業、ロンドン・ビジネススクール経営学修士(MBA、Dean's List表彰)。
東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)、ボストンコンサルティンググループを経て独立し、多数のベンチャー企業のインキュベーションを手がける。その後グロービスに加わり、同社の経営メンバー(マネジング・ディレクター/ファカルティ本部長)を務めながら、サービス、流通、ヘルスケア、金融、メディア、消費財といった大手企業クライアントに対し、戦略立案や新規事業開発、営業・マーケティング強化の支援や指導をしている。また豊富なコンサルティング経験をもとに、経営戦略分野(新規事業開発、サービス経営、BtoB戦略など)の実務的研究に従事。米国のStrategic Management Society(戦略経営学会)のメンバー。主著に『法人営業 利益の法則』(ダイヤモンド社)、『日本の営業2011』(共著、ダイヤモンド社)、『MITスローン・スクール 戦略論』(共訳、東洋経済新報社)。
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