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#63 「好転する衣服」


「みんなをやさしく包みこむような空間ですね」
その方の視点で展示をみると不思議な感覚があった。空間と衣服の狭間に数百メートルはある巨人の着る網目の大きなざっくりニットのような存在で竹の造形がある気がしてきた。(もちろんそんなつもりはなかったのだけど)自分たち以外の誰かが空間に入るまでどうなるかは分からないからいつも楽しい。「好転する衣服」の展示をどう感じたかは本人の中に存在するのだから此処には私の主観しかないけど、一緒に存在した記憶が言葉から遡れるといいな。

展示をした博多区須崎町は大きな2つの川が合流する位置にあって、アーケードには須崎卸問屋街とあり、昔ながらの卸問屋があったり、新しい企業や飲食店が入っていたり、昼間に少し路地に入ると無数の屋台が斜めに傾いている。そんな空気感の中にポツンと在るartspacetetraは、オルタナティブな空間として多くのアーティストが展示をしてもう20年近くになる。(白くなった壁を剥げば、過去のアーティストの絵が出てくるらしい)

その空間で私の見たかった風景をみることができた。福岡の営みにほんの少し触れることができた。ひとりひとりの方に感謝しています。本当にありがとうございました。渡した衣服たちが好転していくことを願っています。(撤収時、半日かけて組んだ竹は天井と繋がる残り一本のテグスが切られるまで空中にとどまっていて何処か切なげで、しなやかでつよくうつくしかった。)

感じたことを短編にして纏めた。
(Instagramでは、1つづつ投稿して行きます。)

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1_水たまりの波紋のように

この展示ではキュレーターとして、うつつ(@u_tutu)さんがいてくれた。聞くところによると、親しい人たちやギャラリー各所にフライヤーを直接配り、行ける場所には二度通っていたらしい。その場所がギャラリーであれば空間や展示を存分に楽しみ、隙間があればお願いをするような態度で熱意をもって関わってくれた。彼がどうしても来てみて欲しかった人たちは、みんな足を運んでいました。とある方は「私たちも最初は未経験でそこから始まっていて彼のようにアナログな行動が大事だと」別の方も「キュレーターだけでなく社会と接続しながら芸術と繋がっている役割が重要」そんな声が聞こえてきた。そのひとつひとつの動きがじんわりとした反応となって伝えたい人に想いや考えが届き、その方の営みと近い人々にまで波及して、波が戻ってくる感触があった。空からみたら絶景だったにちがいない。彼には感謝するばかり。

2_「保存」をすること

とある音楽家の方と再現芸術の存在について話した。楽譜は同時に多数が演奏することを可能にして、数百年も残そうとした行動ではなかったことかもしれないが、今も実存している。再生する機械と保存媒体とセットであるレコード、カセット、CD、MD、MP3、サブスクなど劣化しないとはいえない。楽譜と楽器の生命力ある空間は保存しようがない。布はどうだろうか、何をどうやって保存するのか。ワークショップを通じて保存について考えていきたい。

3_「感情」を使わない

とある方と銭湯に浸かりながら感情の話をした。私は学生時代に瞬間湯沸かし器だったし、そんな自分が嫌でたまらなかったから感情のボリュームの上げ下げを意識して生きてきたつもりで。それから何か悲しい出来事を受け取るときに感情を使わずに情報だけを受け取るように心得ていて、何か伝えたいときに感情を使って手渡したいと取り組むようになった。語った方は、さらっとしてるようにみえて感性でものを伝えるような人だった。

4_すーっと受け取る人たち

九州各地で展示をしているから、どうしても各所で違いが出る。そこに優劣はなく、その地域におけるセントリズム的な価値観や慣習が現れることこそが面白味と感じる。今回訪れてくれた人たちから感じたのは、sanakaのコンセプトをすっーとしなやかに受け取って、服をみてくれた感触だった。説明せずとも私たちが目指したい世界をなんとなくでも汲み取ってくれて服を渡さなくても価値ある行為と認めてくれた感じがしてうれしかった。文化圏に芸術が近い人たちだったからもしれない。

5_一方的に話すこと

展示をふらっと立ち寄ってくれた方がいた。sanakaの展示について触れる訳でもなく、何処かが繋がるかもしれないと汲み取るように聞いていたのだけど「グラビアアイドルが福岡から進出するためには…」と(どうなればそうなるのか忘れてしまったが)自分の考えを語っていた。その方に何を渡せるか何処かに触れることはできないかと考えながら聞いていた。名前を尋ねて「○○さん、きっと沢山の情報を調べて何処かでアウトプットしたい気持ちは重々分かります。私たちもですね、伝えたい意志をもって今此処の空間をお借りして展示をしています。その場所に○○さんの伝えたいことが交ざると会話が成り立ちませんし、もしよかったら何処か会場を借りて表現するのがいいかもしれませんよ」と伝えた。すると「よくこうなってしまうんです、失礼しました」と少し反省した面もちで帰っていった。距離感は何をするにも大事だし、関わらないを即断したくないし、なんか選べない。

6_誰に届ける?

とある方が「ターゲットを考えたことがありますか?」と言った。しばらく考えて、そもそも明確にしてないからはっきりと答えなかった。けれど、年齢や性別ではなく祖父母の着物を残したいって心がある方と今は伝えると思う。福岡での展示では、その心をもった方とたびたび出会えたから安心した。基本そこにジャッジしないし、もし今なくてもいずれ芽生えたときにまた出会えたらうれしいね。だからこそ、廃盤のない形を提案したいと思ってる。

7_分けること

sanakaの展示は、沢山の布を同時にみれるのも魅力のひとつな気がしてて、とある信頼している方が「sanakaの服は合わないものがない」と断言してくれたことを今でも胸にしまっている。ただ今回の展示を経て、物理的な空間の限界を感じたり、その場を育てている方の世界観に合わせてsanakaの衣服たちを分散していくインスピレーションが生まれた。sanakaは形をつくるブランドだから、布を空間に合わせたらいいし、誰かが服を選ぶのと違いは少ない。空間を小さくしたり、大きくしたり、ただ心拍するように伸び縮みさせたい。

8_解く時間

sanakaの解くワークショップは、ぬるっとはじまってぬるっと終わる。ときにはプレゼンのような形式で行うときもあるけど、できればたこ焼きをつつきながら話すような時間を過ごしたい。とある方がご紹介で来てくれて、ぬるっと解きはじめてくれた。他愛のない話や冗談をいいながら、ふと時間が過ぎていく。時間もまた伸び縮みするからたった二度しか会っていない方と昔からともだちのような感覚になった。やっぱりお別れは少しさみしいね。「会いに来よう」が次に来る理由になる。

9_頭で再生することば

最終日、展示が始まる前にとある場所に向かった。展示に訪れてくれた方が営むお店。どことなく生活感がある街並みから裏路地を入ると変わった扉を境に詫びと寂びの空気観に吸い込まれる。奥の展示室に置かれた本たちには、店主の言葉が添えられていて選書されたものとすぐ分かって、物事との距離感に慎重な雰囲気が伝わってきた。空間と空間がちょうど良い距離があり、喫茶室に落ち着いた気持ちで向かうことができた。二杯目の煎茶を飲み終わる頃、一時間程経っていてそそくさと帰ってしまった。帰りのバスの中、話した印象的なことを頭で再生しながら、徒党を組まない平和的な対話がいつだって重要なのだと思った。

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鹿児島から来てくれた方、通りすがりの韓国の方や通りかかって気になったから調べて勇気を出してきてくれた方、去年の展示にも足を運んでくれていた方、急遽気になったヘアーサロンを予約してたら偶然鹿児島の方で、更にそこで同時期に展示してたアーティストの方も、近所にお住まいの方で四度も来てくれた方、植物から糸にして表現する方、似たような関心を持ったギャラリストの方、展示を見に行ったらそこで働く方と意気投合して「明日行きます」と言ってくれて翌日同じギャラリーで働く別の方がたまたま見に来られたタイミングで意気投合した方も来て楽しい時間を過ごした方々、夜営業していたギャラリースペースに行ってそのオーナーが翌日sanakaの展示に来てくださると知っていたのにも関わらずなるべくバレないようにしつつもバラし結果楽しい時間を過ごした方々、上げ出したらキリがないくらい私の身体に残ってます。また一人一人に会えるのを楽しみしています。

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「好転する衣服」展
場所:artspacetetra
日時:5.19(FRI)ー25(THU)(平日13-20時、休日11-20時)

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