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ヌーソロジーとは何か——


ヌーソロジーとは、物質と意識を統合的に捉え、人間の存在論的・宇宙論的な地平を広げる新しい学問です。

ヌーソロジー(Noosology)とは、一言で言えば、物質と意識のあいだに横たわる境界を越えて、両者を一つの統合的モデルとして捉え直す試みです。従来の科学が扱ってきた「外部世界(客観)」と、哲学や心理学が扱ってきた「内的世界(主観)」を、幾何学的・数理的な枠組みを用いて、その構造のベースとなる空間構造をモデル化し、かつ、そのモデルを空間認識の道標とすることで、新しい存在論や宇宙論、さらには意識論を、思考的実践を伴う形で展開していきます。


1. ヌーソロジーの基本的視点:

背中合わせの自他関係

ヌーソロジーはまず、観測者の位置を時空の外部としての無限遠点と仮定し、そこから、「自己(主観)」と「他者(客観)」の関係を、時空上の+∞と−∞という「無限遠点」の形で、背中合わせで存在している二つの空間として仮定します。これらは、4次元時空の外部における二つの方向性という意味で、5次元の空間構造の一部になります。この5次元における二つの方向は、アインシュタインの一般相対論に登場する正の曲率を持つ「ド・ジッター (dS) 空間」と負の曲率を持つ「反ド・ジッター (AdS) 空間」に対応させることが可能です(詳しい議論は、いずれ登場してきます)。

  • 自己視点…正の曲率をもつ「ド・ジッター (dS) 空間」

  • 他者視点…負の曲率をもつ「反ド・ジッター (AdS) 空間」

このような関係で主観空間と客観空間を見て、さらにそのあいだ(あるいは重なり合うところ)に、物理学が言うところのCFT(共形場理論)の空間を位置づけ、その場所を「自己と他者の意識が交差し合う場」として扱うのです。ヌーソロジーではこのような図式をNC(ヌースコンストラクション)と呼んでいます(下図参照)。

NC(ヌースコンストラクション)
厳密数理的には、「 Spin(N) = CFT空間」 という同一視は成立しません。 ただ、 Spin(N) がCFTの対称群SO(n,2))と深く関係し、コセット空間でCFTの境界時空を構成する形であれば、 Spin(N) がCFT空間の構造と結びついていると説明することは可能です(byジピ)。

このAdS/dS/CFTのトリニティの図式は、もともと最先端の理論物理学(AdS/CFT対応など)で使われている幾何学を、ヌーソロジーが意識論・存在論に取り込むために“再解釈”したものに当たります。この幾何学的関係を厳密に取り扱おうとするとかなり高度な内容になりますが、イメージとしては、内在世界(dS)と外在世界(AdS)の中間に位置するCFT空間の場が、主観世界と客観世界の境界になっており、尚且つ、このCFT空間が主観と客観を統合する場になっていると考えることもできます。


2. 物質/精神を結ぶ仕組みとしてのCFT空間

2.1 CFT空間は「創造原理の場」

ヌーソロジーでは、CFT空間を自己(dS)と他者(AdS)が交差する「創造原理の場」として考えて行きます。このCFT空間は、物理学では素粒子構造が構成されている場(ゲージ場)にあたり、実質的には、この場は物質の原初的な創造の場と言っていいものになります。これらCFT空間とdS・AdS空間のトリニティのイメージを哲学的に考えると、ドゥルーズの存在論のコンセプトと非常に重なり合う部分が多く、次のようなイメージでこれらの対応を考えることができてきます。

  1. 巻き込み(implication)
    ドゥルーズの哲学用語では、CFT空間は“精神の差異や情報を内在化(巻き込み)する”潜在的領域として解釈することができます。持続空間として差異化した超越論的無意識の場です。ここで精神の“地層”が作られていると考えるといいでしょう。

  2. 繰り広げ(explication)
    CFT空間に潜んでいたものが、「他者視点(AdS)」や「自己視点(dS)」へと展開(繰り広げ)されると、私たちが経験する客観的な物質世界と主観的な意識世界が具体化します。現象世界が他者視点と自己視点を中心にして、客観と主観の二つの世界へと分離するということです。

こうして、物質(客観)と意識(主観)を同時に生み出すプロセスが、ヌーソロジーにおけるCFT空間の核心的な役割として描像されてくることになります。

2.2 自己/他者視点への射影

  • 自己視点 (dS) の射影
    精神地層が外在化と内在化の二つの方向へ繰り広げられると、まずは自己が世界を“球面的(正の曲率)”に捉える空間(dS)が立ち上がります。ここには「主観的な宇宙」や「身体感覚を通した世界」や「内的な持続感覚」が現れてきます。この領域は「自己が自己であること」の実存を担保している空間と考えていいと思います。dS空間においては、意識がCFT(存在)と繋がっているということです。

  • 他者視点 (AdS) の射影
    逆に、精神地層が外部化・客観化の方向に展開されると、負の曲率(双曲的深さ)のAdS空間へと形成されます。これは自己が他者視点を通して、世界を言語化、概念化している世界に当たります。ここでは、他者や外部世界との隔絶感や、外的な時間感覚、さらには、世界が外部的な対象の場となって現れる客観感覚が生まれています。ここでは、自己の意識は他者視点化しているので、存在との直接的なつながりはありません。


3. ドゥルーズ哲学とのつながり

哲学者ジル・ドゥルーズは、その主著である『差異と反復』で、「巻き込み」と「繰り広げ」などの概念を通じて、存在世界がどのように生成運動を繰り返しているかを探究しました。先ほども言ったように、ヌーソロジーでは、このドゥルーズの生成論を以下の形で取り込みます。

  • 「巻き込み(implication)」…CFT空間で潜在的に折り畳まれている精神の地層。

  • 「繰り広げ(explication)」…折り畳まれた差異が外へと展開され、AdS/dS空間に具体化する。主客一体だった世界が、主観と客観へと分化する。

この運動を繰り返すことで、精神は多層な構造を構成し、必然的にその繰り広げとしての物質世界も多層な構造として展開されていく、というのがヌーソロジーが描く存在像のビジョンです。ドゥルーズ哲学との相違点は、ヌーソロジーの場合は、この動的なダイナミズムの構造を数学のスピン群(Spin(5) や Spin(6), Spin(7) …)などの高次対称性の概念を持ち込み、意識と物質の生成が段階的に拡張・複雑化する様子を数理的、幾何学的に構成し、かつ、そこで現れてくる構造を実際に空間的に描像し、一つの思考の実践として行っていくことを試みていきます。つまり、ヌーソロジーは単なる理論モデルではなく、高次元空間のダイレクトな認識のメソッドになっているということです。この実践面に関しては、現代的な空間瞑想のメソッドと言っていいかもしれません。内観による構造の認知が重要な要素になってきます。


4. 量子論/宇宙論との接点

4.1 量子波動関数と「持続空間」の見立て

当然のことながら、このCFT空間の導入に従って、ヌーソロジーでは量子構造と意識の関係について、深く思考していきます。例えば、ヌーソロジーでは、量子力学の波動関数(たとえば定常状態)

を「観測者が一つの対象を認識しつづけるための持続空間」として読み替えます。言い換えるなら、私たちが一つの対象を空間上に認識できるのは、背後にこうした認識を可能にするための空間構造があって、その空間構造を数学的に表現しているのが、量子力学における定常状態としての固有関数の役割になっているということです。この辺りのことは最近の量子情報理論が量子を物理的実在というよりも一つの情報として見るのと似ています。ただ、ヌーソロジーは、この情報の働きを、人間の意識に認識を与えるための情報として解釈するということです。ドゥルーズ的に言えば、これは「センシビリア」に対応します。センシピリアとは、感覚化されるものではなく、「感覚化サセテイルモノ」のことです。その意味で、ヌーソロジーでは量子力学が記述する量子構造を物資の構造ではなく、人間の意識を組織化していくための超越論的な意識が働いている能動的知性(ヌース)の領域として解釈していくわけです。

  • 従来の物理学では波動関数を“純粋に物理的な存在”とみなしてきましたが、ヌーソロジーはそこに超越論的意識・超越論的認識の空間が投影されていると考えるということ。

  • こうして、観測者(自己視点)と観測対象(他者視点)が逆向きに結合する領域の中で、波動関数が意識(自己)―物質(他者)を結ぶ接合面として機能するものとして捉えることができてきます。そして、この接合面をCFT空間の役割と見做していくわけです。

4.2 dS/CFTという新しいアプローチ

物理学では、AdS/CFT対応の理論は大成功しているものの、dS/CFT対応は未解決な問題が多く、正の曲率(dS)の扱いが非常に難しいとされているのが現状です。ヌーソロジーはdSを自己視点を中心とする空間として基盤に置き、そこを起点にCFT(精神地層)やAdS(他者視点)を導入し直す発想を提示します。

  • これは既存の枠組み(AdSを先に置く)を逆転させ、dS空間→CFT空間→AdS空間という流れで宇宙や意識を記述する新しい理路を構想する試みになります。この逆転には、創造されたもの側の場から、創造するもの側の場へと、意識を反転させる意図があります。


5. ミクロとマクロ、物質階層の生成

ヌーソロジーは、ミクロ(粒子・量子)とマクロ(天体・宇宙)の双方を含むあらゆる物質階層が、CFTでの潜在的“精神地層”がアクチュアルに展開した結果だと捉えます。

  1. ミクロ:AdS的外在化

    • 粒子や場の微細構造が、他者視点(AdS空間)の深部として具現化。量子現象は、CFTが包み込んだ情報の“局所的投影”とみなせる。

  2. マクロ:dS的内在化

    • 宇宙の大規模構造や主観的世界像は、自己視点(dS)の膨張を通じて出現。私たちが感じる身体・環境・宇宙は、このマクロ側の投影として成立。

こうした二重構造が繰り返され、物質と意識が多層的に組織化されていく――これがヌーソロジーが描く“統合的な存在論”に向けての骨格的構造です。


6. ヌーソロジーの意義と今後の展望

6.1 物質と精神の統合理論への道

ヌーソロジーは、個人的には、以下に挙げるような大きな可能性を示唆していると考えています。

  • 量子論の測定問題宇宙論の正の曲率問題など、物理学が抱える根本課題を、NCの構造を導入し、その視点から捉え直すことで現代物理学に新しい解釈を与えることができる。

  • 意識研究(認知科学・神経科学)や哲学的存在論との連携により、「主観と客観をどう橋渡しするか」という問題を幾何学・数理的に再整理することができてくる。

  • スピリチュアル/哲学的文脈で言及されてきた「意識の深層」「世界との一体感」などのテーマを、AdS/dS/CFTという物理モデルと併せて論じる土台ができ、宇宙を精神的存在としてイメージするためのビジョンが生まれてくる。

6.2 今後の研究課題

  • 数理的厳密化…AdS/CFTやdS/CFTの物理学的な理路をどこまでヌーソロジー流に展開し、演算子対応や相関函数などの概念と結びつけられるか。

  • 実験的接点…量子情報、ホログラフィック原理の数値シミュレーション、または脳科学データとの照合など、具体的な検証が可能なのかどうかを探る。

  • 学際連携…哲学・自然科学・認知科学・宗教学など、多領域が交わる場を作り、ヌーソロジー的世界観を相互のハブとして、批評、批判を受けながら、この視点による概念体系を発展させていく。


まとめ:ヌーソロジーとは何か

ヌーソロジーとは、

  • 物質=客観と精神=主観を、幾何学的・数理的なモデルによって同一のフレームワークに入れ込み、自己と他者の背中合わせの構造から、両者の双対関係がどのように生成・展開されていくのかを探究する、新しい存在論・意識論・宇宙論の総合モデルであり、尚且つ、その思考的実践のための方法論です。

  • 背中合わせの自他関係:dS(自己)とAdS(他者)を結ぶCFT空間で、ドゥルーズ的な巻き込みと繰り広げが起こり、現在、私たちが観測している宇宙における様々な物質階層が生まれている。

  • 物質階層と意識の多層構造:スピン群の拡張——Spin(N)やSpin(N,2)、さらにはドゥルーズ的な生成論によって、物質・精神の複雑な変容が一体的に記述されることが期待される。

  • 量子論や宇宙論との接点:定常状態の波動関数や宇宙の膨張モデルなどを、認識論を組み合わせて再評価することで、“主観と客観の統合”に向けた理論的な突破口を提示することができる。

従来、意識と物質は全く別物として扱われてきましたが、ヌーソロジーは両者を自己と他者の背中合わせによる一つの空間構造として捉え直し、そこに両者の大いなる包括的なビジョンを描こうとしています。まだ土台づくりの段階ですが、このような思考方法は今まで存在しなかっただけに、一つの学際的研究として進める意義は十分に大きいのではないかと感じています。物質と精神の統合理論は多くの学問が切望しているテーマでもあり、ヌーソロジーはその地平を切り拓く可能性を秘めているのではないかと強く感じています。

                                半田広宣


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