やっぱり生き延びなきゃ

日に日に、冷ややかな対応をされている事には気づいていたが、原因が全くわからなかった。
わかった頃には、収集がつかなくなっていた。

私が昔働いていたバイト先でのこと。好きです。付き合って下さい。と告白された。私は、付き合う気持ちがない事を伝えて断った。
それでも、私のような人間を好きだと思ってくれた事は嬉しかった。これからも仕事をしていくので、気まづくなるのも嫌だった。

それからしばらくして、また告白された。私は、好きな人がいるからごめんなさい。と理由をつけた。それからまたしばらくして、私の言う好きな人と私が上手くいかなかったら付き合ってほしい。と言われた。
私の言う好きな人とは、断るもっともらしい理由であって、実際に存在しているわけではなかった。
私はそれでも付き合う気持ちがない事を伝えた。

後から思えば、その頃と並行して周囲にあれ?って感じる事があった。いつも挨拶する、おはようございます。や、お疲れ様でした。が微妙に違った。無視をされる訳ではなかったが、目線や声のトーンで、自分に好感を持っていないと感じた。少し前まで、笑顔で挨拶する事もあったのに、おかしいな。なんかしちゃったかな?と不安に思った。

それでも、決定的な何かはなかった。
仕事の話はするし、休憩中にたわいのない話もした。しかし、何かが違った。私はバイトに行くのが嫌だなって思う事が増えていた。

そんなある日、原因は突然わかった。
普段は、違う時間帯で働く中番の1人と同じ時間に働く事になった。彼はにやにやしながら、告白してくれた例の人と付き合ってたの?と私に聞いた。私が付き合ってないと伝えると、そうだと思っただよね。とにやにやしながら続けた。彼の大学が夏休みの時、私はよく彼と同じ時間帯で働いていた。例の人も同じ時間帯だった。その様子から違うと思った。と言っていた。私は原因がわかったのだからすぐに誤解は解けると思った。そんな事かぁ。くらいに思っていた。

しかし、それは、私が思うより重大になっていた。例の人は、私に好きです。と告白してくれる前から、周囲に私との事を相談していた。
私と付き合っていたが、実は好きな人がいて、二股をかけられて振られた。私は、ああ見えて嫌な女。と言われるようになっていた。

そして、この話はバイト先のある程度の人が知る話になっていた。小さなお店なので、そうなっても不思議ではない。それでも、いつか誤解は解けると思っていた。

しかし、その後、私が事実を話しても誤解が解けることはなかった。
事実を話すと言っても、親しくしてた人、同じ時間帯で働く人くらいだった。私と例の人との話聞いてますか?誤解があります!と言ってまわる訳にもいかないし、聞かれない事、直接言われない事に対して、自分からどうするべきかわからなかった。

私が、ちゃんと断っていた事を近しい人に話しても、例の人がそこまで思い込む事はない。何か思わせぶりな所があったのだろう。と信じてもらえなかった。そもそも誰も事実になど興味がなかった。別にどっちでもいいけど、例の人も可哀想だよね。という形で噂話は広がっていた。

ここまでくると、もしかしたら、私は私が気づかないうちに、思わせぶりな態度をとっていたのだろうか?と思うようになった。
相手は、私と付き合ってると思っていたのだろうか?どうしてこんな事になってしまったのか、知りたかった。私は勇気をだして聞いてみる事にした。

私が例の人に、私とあなたは付き合ってたの?と聞くと、不機嫌そうに付き合ってないじゃん。と答えた。私の頭はハテナでいっぱいになった。なら何で私と付き合ってる。と話したの?と聞くと、付き合ってると言えば、周りが遠慮して話しかけないと思った。まだ付き合える可能性はあると思った。との事だった。

それでも1番ショックだったのは、同じ時間帯を働く、2人でご飯を食べに行く仲の人でさえ、私の悪口を言っていた事だった。少なくとも私は仲がいいと思っていた。こうなる前に、どうして何も聞いてくれなかったのだろう。それが悲しかった。誰一人、私はそんな事する人ではない。と思ってくれなかった。

私が、この事に気付いた事により、私が悪いんだが決定的になり、みんなが私と距離を置いた。捨て忘れたほんの些細なゴミでさえ、悪口の対象になった。そのゴミを捨て忘れたのが、私ではないとわかると、よくある事だよね。またあの子かと思って。に変わった。理不尽だった。

もし、告白された時点で、周囲に話していれば、こんな事にはならなかったのだろうか?私の断り方がいい加減だったのだろうか?私は何がいけなくて、何が正しかったのかわからなかった。ただ、私は好きになってくれた気持ちを言いふらすような事はしたくなかった。先回りして悪口を言うのも嫌だった。 私が何も言わない間に、噂は広まり、私がこういう人間だ。という印象だけが、事実として残ってしまった。

辞める事も考えた。だけど、せっかく仕事も覚えてるので辞めたくなかった。なにより、この事を理由に辞める事が悔しかった。私が辞めたら、やっぱり私が嘘をついていたんだ。って事にされてしまう。私は悪い事をしていない。という気持ちが、辞める必要はない。続けようと思わせた。

噂話は終わっても、なんとなく好きじゃないという相手の印象が、私には嫌がらせに感じた。例えば、これ忘れてたからやっておいたよ。みたいな、気遣いが私にだけ向けられない事が、私にとっては十分嫌がらせだった。私からの気遣いは余計なお世話になり、もう嫌いな人が何をしても嫌いなんだろう。と思ったら手の施しようがなかった。

私は、それでも明るく務めた。努力をして、なんとか会社の輪にはいろうとしていた。
何も感じない人のように、何も考えてない人のように、ただ明るく務めた。が無駄だった。それからしばらくしてある話を聞き、バイトを辞めた。

私と2人でご飯を食べに行く仲の私は親しいと思ってた人が、浮気をしていた。浮気相手は同じバイトで同じ時間を働く人だった。浮気相手の彼女は、私の友達の友達だった。直接的に仲がいい訳ではないが、連絡先は知っていた。友達を通せば会うこともあった。

この、2人でご飯を食べに行く仲の人には付き合っている人がいて、子供もいた。
私は、2人でご飯を食べに行く仲の人から、この実は浮気している話を聞いた時、良くない。と答えた。私はそういう良くないと思う。とだけ言ったのだった。これに関して、取り消す気持ちがなかった。余計なお世話に感じたのかもしれない。ただ話を聞いてくれる人が欲しかったのかもしれない。だけど、少なくとも私は親しいと思っているのに、賛同するような事は出来なかった。

ご飯を食べに行く仲の人は、賛同されなかった事により、不安を感じた。私が言いふらすんじゃないかと思った。浮気相手は、友達の友達と別れる気がなかった。バレたら困ると思っていたし、私がバラすんじゃないかと不安だった。私の弱みを握りたい。などと漏らす事もあったらしい。そんな時、例の人から私に告白したと聞き、私の行動は好きの裏返しだと誘導していた。それと同時に私の事を悪く言った。悪くといっても直接的に言うものではなく、どうかと思うよ?と問題提示する形で話を聞いてる人に、私をちょっとおかしいよね。と思わせた。

勿論私は、何も言いふらしてなどいなかった。浮気がどうとか言いふらす事に興味がなかった。だけど、ご飯を食べて行く仲の人と浮気相手は、私を怖がり協力して意図的に私の信用を失わせた。私は今まで経験した事のない、圧倒的な悪意にただ、驚くしかなかった。
2人はなんらかの理由で別れる事になり、悪口を言い合うことによりこの事がわかった。
今度は、この2人の噂話で持ちきりだったが、もう噂話はうんざりだった。私はこんなことに悩み、食欲をなくすほどだったのか。と思うと腹立たしかった。私が悪くない事が証明されていない悔しさが残ったが、そんな事にこだわるより、この環境から逃げる方がいいと思った。

バイト先を離れて、新しい職場を見つけると自分のいた場所が異様だった事に気づいた。
悪い話が悪い話を呼び、負の連鎖に陥っていたように思う。自分の身を守るために噂話をして、社会の輪から外されないようにしていたようにも感じた。この輪の中に、私も含め、正しい人などいなかった。私はここから逃げる形で抜け出した事を良かったと思った。そこにいると自分がとても小さな世界にいた事に気づけなかった。お陰でご飯も美味しくなった。

私達は、想像を絶する悪意の前では無力だ。それに対抗しても心を汚し、労力をかけても不健康になるだけでバカバカしい。命をかけるほど大切に思える事も世界も、一歩外に出て落ち着いてみればなんて事なかったりする。
一歩外に出る事が逃げる事と感じ、自分の今までを無駄にしたくない気持ちが、この一歩を難しくする事もある。この一歩の先に世界などないと絶望する事もある。

だけど、実際本当に命をかけるほどのことなんて、長い人生でみたらない。命などかけなくていいから、生き延びる事を考えたい。生き延びてしまえば、どんなに絶望的に思えた事でも、過去に変わり、乗り越えられないトラウマが残ったとしても、楽しい日が絶対にある。
だから、死なないでほしい。耐え忍んだとしても、生き延びる事に価値はある事を証明していきたい。子供達の未来の為に。


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