見出し画像

電通生活で強めに歩留まったパワーフレーズ4選

「インクの匂い香る我が局へようこそ!」
研修が終わった2012年6月、新しいものを作りたい!という動機で入社した私に告げられた配属は、最も歴史と伝統ある新聞局。
「いいね。うちの局って電通で唯一『新』って言葉入ってるじゃん」
違う。そういうことじゃない。というか、冗談かと思いきや実際にインクの香りするし、面白いと思って言ってるのかどうかも定かじゃない…。

パワーフレーズ① by 稲葉浩志

そんな混乱からはじまった1年目は、私の場合は結構大変でした。

局の中でも、最も大変と言われていた担当への配属。
それこそインクまみれになりながら必死にやる、社内新聞配達。
圧倒的に正しいけど異常に怖い、叱咤激励とプレッシャー。
ノート見開き2ページに及ぶ、未達成のタスク一覧。
別次元で押し寄せる、プライベート的荒波。

具体的には書きませんが、そんなでだいぶ追い込まれていた時期があります。そんな中で出会ったのが、ひとつめの言葉。

【光を求め歩き続ける 君の情熱がいつの日か 誰かにとっての光となるでしょう】

(B’z「光芒」の一節)
最初に紹介したいのは電通の人の言葉ではないです。B’zです。
このB’zの稲葉さんという人は本当にすごい。あの見た目と声を持っているのはもちろんのこと、納税者番付でいうと芸能人で唯一トップ100ランクインしたり、生涯収入は恐らく100億近い可能性があるなどの極みにいっているのに、描写するのは「ダメな男」のぼやきや、「苦しんでいる人」を勇気づけるようなことなんです。たぶん、だからこそ共感の総量も大きく売れているのだと思います。何かを出すと無条件で必ず買う/動くという人がベースで4万人以上いて、それが30年続いているというアーティストパワーは、そのプロフェッショナリズムと稲葉さんの哲学によって構成されたブランドの持つ求心力なのでしょう。
ちなみにこの一節のすごいところは、苦しんでいることの意味の持たせ方が新しいということですね。「歩き続けると、いつか光見つかるよ!たぶんね」とかそういう次元じゃないんです。「そのアクションそのものが、誰かにとっての光になる」ですから。J-POP的には深いし新しい。完全にひとつ先をいってる。曲自体も、さんざん暗い感じで曲が進み、そのまま終わるかと思いきや最後の大サビでこれですから。伝え方も完璧です。もう最高。
ネガティブな部分を新しいアプローチでプラスに変えようという発想も、良い意味で電通っぽいというか、自分の好きな考え方でした。
というかB’z、総じて電通っぽいすね。例えば(以下割愛

パワーフレーズ②:by 挑戦についての広告

・・・さてそんなでその1年目の荒波(編集注:リアルに今はこういうことはないらしいですし、いつがつらいかは人それぞれです)をなんとか乗り越えたあと、あるメールを打っていました。具体的にはやや記憶が曖昧なのですが、いずれにしても「挑戦」について語っていた広告についてのメールです。例えばこんな感じです。

【人も経済も、成長したいなら、挑戦だ】

一方で、私の1年目の仕事は前述のような感じだったのですが、やっているメインの仕事は調整することでした。関わる全ステイクホルダーの目的を理解した上で、貸し借りをうまく使いながら、着地させること。これをメールベースでわかりやすく伝える。
つまり、「調整」ということばをたくさんタイピングし、そのことに慣れまくっていました。
そうすると、上記の文言を打とうとすると、

【人も経済も、成長したいなら、調整だ】

となるわけです。「ちょうせ」と打つと、自然と右手中指が「i」のとこに向かい、挑戦が調整になる。何回やっても、「n」にはいかず「i」にいって、挑戦が調整になる。
経済成長における金利調整的な?まぁわからなくもないんですが、自分にマジレスすると、調整することは、挑戦するための手段だと思うわけです。

この一連のミスタイプでその手段にとらわれている自分に気付いて、挑戦のために調整をするようになりました。新聞社のブランディングアクティベーションや、やりたいことを実現するために新聞+でメディアグループの力を使った企画を行う、そのための調整。
そのためには挑戦したいというマインド、言い換えると仕事に対するオーナーシップを持つと、やっていることに意味が生まれるわけです。

で、すごいのは、これを結構年次が浅いタイミングで僕にさらっといろいろと任せてくれた上司や先輩の皆様がたです。しかも任せるだけじゃなくて、相談すると素晴らしく的確なアドバイスが頂ける。電通ではそんな素晴らしい方々に恵まれました。
当時の社長が言っていた

【自由と責任】

という文化が好きなのですが、きちんと責任を果たした先には自由があって、そこでやれることの幅が大きい。ここが、電通の良いところであり、たくさんの面白いことを生み出してきた力の源泉であり、これからも恐らく続いていくであろう良い文化だと思っています。

パワーフレーズ③ by 名プロデューサー小谷正一氏

そんな中で、私を電通に導いてくれた先輩との会食がありました。当時、電通でできる面白そうなことが見えてきて、少しテンションがあがっていた時期。そこで聞いたのが小谷正一さんのお話でした。
戦後の高度成長期に毎日新聞の事業局から吉田秀雄氏に乞われて電通にうつり、その後独立。その生涯では初の民間ラジオ局の制作に尽力したり、大阪万博のパビリオンプロデュースをしたり、パ・リーグを作ったりと、戦後日本を代表するプロデューサーと言われている人です。

そんな小谷さんの名言。紹介されている本である「エンタメの夜明け」で紹介されている文言を引用します。これは大本命ですね。

===
小谷の部下だった岡田芳郎は、小谷にこうつっかかったことがある。
「ボクは、小谷さんがうらやましいですよ」
「何で?」
「だって、今という時代は、広告でもイベントでも何でも形が完成してしまっていて、行き詰まっているでしょう。小谷さんみたいに、時代の過渡期に、真っ白なキャンバスに思い通りに絵が描けたら、ほんとうに楽しそうじゃないですか。うらやましくてしかたありませんよ」

小谷はまっすぐ岡田の目を見て、こう答えたという。

【岡田くん。いつだって時代は過渡期だし、キャンバスは真っ白なんだよ】

(P.229)
===

最近思うんですけど、このレベルの人たちは関係のない事象に対してなんらかの共通点とか法則性を見つけるのが得意なんですよね。「勘が良い」と表現されることもあるけど、小谷さんという人も例外なくそうで、法則に従ったその先が見通せていたのだと思います。
事実、今の電通の役割分担の原型を作ったのもこの方です。また、1983年に電通の顧問をやめる際にも「これからは数字ではなく質が問われる時代がくる」ということばを残していたと言います。自分なりに解釈すると、数字が大事でないということを言っているわけではなく、数字が持つ意味をきちんと説明できるようにいけない、ということかと思います。
スポットを性年齢みたいな区切りだけで売るな、とかそういうことすかね。違うか。

いずれにしてもこの、このスキャンダラスなキャンパス真っ白発言を知った時には、衝撃を受けました。あんまり衝撃とか受けないタイプなんですが、タイミングもあいまってかすごく勇気づけられました。

そして、先日開いていただいた送別会で記念品で頂いたものが、なんと裏側にメッセージの入ったホワイトボードでした。真っ白なキャンパスが自分用として物理的に目の前にあらわれるとややびっくりしますが、裏側に頂いたメッセージも含めて、この思いはこれからも大事にしていきたいなと思う次第です。

で、この考え方はどこでも心を動かすだろうとか思って、有給期間中セブに語学留学したときに卒業プレゼン的なものがあり、この話について熱弁をふるったところ、割とみんなポカーンとしてました。なので全人類に共通するものではないということもわかりました。

パワーフレーズ④ by先輩の小学校2年生時の担任の先生

最後に紹介したいことばです。これまた電通の中で超尊敬する先輩がいるのですが、その先輩とサシで焼肉食べる機会をいただきました。
その先輩はたくさんの面白い仕事を進めていて、どう控えめにいってもストイックで。仕事を通じても直接的にも、電通で働くことに対するプライドのようなものを学んでいて、その背中を見て学ばせてもらっていました。
そんな中で、その電通で働くプライドが失われてしまうようなことが起きました。個人的にはそれが対岸の火事というわけではなかったので、今後、どのように考えどう行動するのが良いのだろうということでその先輩に相談して、連れて行ってもらったのです。

具体的には書けないのですが、そこで言っていただいたのこされた人が持つべき考えや行動の仕方が、個人的にはすごく腑に落ちて前を向くことができる機会でした。
その本筋とはそれるのですが、先輩がそこで話してくれたエピソードが印象に残っているので紹介しようと思います。

**
小学校2年生のとき。ある日席替えがあった。
しかし、このときはクラスの中でどうも納得のいかない席替えだった。
これくらいの年ごろにとって席替えは超重要イベントだし、常に席替えをしたい生き物。
すぐにもう1回席替えをしたいというクラスメイトに対して、
担任の先生が言った言葉がある。

「君たちの気持ちはわかった。そしたら、君たちがその席で

【やりきったと言い切れるようになったら、席替えしよう】」

この言葉はずっと自分の中で残っていて、大事なことだと思っている。
**

TEDの有名なプレゼンでも「GRIT」が大事、みたいな話がありました。徹底的にやり抜かれたものは、プロジェクトであれ文章であれ手作りのものであれ良いものです。いつの時代も絶対に必要なことでしょう。
ただ、このやり抜く力というものはすごく難しい。なぜなら、やればやるほど「もっとこれがやれる」「こんなこともできる」というものが出てくるから、そのやり抜くというハードルが無制限に高くなっていってしまう。

自分の場合は、今の自分でできることはやりきったかなという感覚は、あるイベントのときにもちそれも印象に残っているシーンとしてあります。
とはいえ、残していくプロジェクトはあります。やりきったと言えばやりきったものの、よりハードルが高くなった壁があることも事実です。ですがきっと、素晴らしいチームが形にしてくれるのだろうと思います。そしてこれも、自分の決断の一部なのだと思います。

***

他にも勉強になったことはたくさんありますが、印象に残ったことばということで書かせてもらいました。私がかなりJK好き(自己啓発好き)だということがわかっていただけたかと思います。

ちなみにこの6年間で出会ったベストブログは、さとなおさんのこのブログです。これにも救われました。ここに書いてあることは、まさにこれから人に伝えるための文章を書くのであれば目的にしたいことです(やや仕事寄りの話にしたいですが)。
ここで伝えたいのはいろいろと教えてくれた電通の皆さん(+稲葉浩志)への感謝と、電通はとても良い会社だという主張です。最後、送別部会で送って頂いた麻雀牌に刻まれた一字を胸に、国士無双で頑張ってきます。

最後に。人生セカンドステージでは、「憧れの誰か」や「その発言」からJKするのではなく、自分が誰かをJKする存在になっていかないといけないなと感じています。簡単ではないですが、まずは自分が思う良い仕事をすることからはじめたいなあと思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?